西武西武渋谷店

2014年5月21日(水) Think College Vol.19

着る人もつくる人もしあわせになる?!
フェアトレードから学ぶしあわせになるヒント

講師:鈴木 史 / ピープル・ツリー 事業開発シニアマネージャー

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
世界フェアトレード月間の5月は、「フェアトレード」がテーマです。
"公平な取引"っていったいどういうことでしょう?

フェアトレードとは、途上国の原料や製品を、適正な価格での継続的な購入を通じて、立場の弱い人たちの自立と生活を改善することを目指す取り組みのこと。

言葉にするとシンプルに聞こえるかもしれませんが、"フェア"であり続けるためにはさまざまな側面に気を配る必要があり、そのため「フェアトレード」という考え方は知っていても、具体的にはよくわからないって方も多いのでは?

今回は、日本最大のフェアトレードブランド「ピープル・ツリー」の鈴木史さんを先生に、"人と地球にやさしい貿易のしくみ"を、詳しく紐解いていきます。

講 座 レ ポ ー ト

「フェアトレード」ってなんでしょう?

鈴木

ピープル・ツリーで企画とマーケティングを担当しております鈴木と申します。よろしくお願いします。今日はお話を進めながら、フェアトレードについて、そしてフェアトレードから見える幸せというものについて、皆さんと一緒に感じ取っていけたらいいなと思っています。

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早速ひとつ、皆さんに質問なのですが、「フェアトレード」ってなんでしょう?

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売り主と買い主の関係性が対等であること、共にWin-Winな関係であることだと思います。

鈴木

ちなみにその対等であることというのは、イコールどういう意味ですか。

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それがわからなくて今日は来ました。

鈴木

ありがとうございます。私自身フェアトレードって、とても難しくわかりにくいと思っているところもありまして、今回皆さんに少しでもわかりやすく伝えられたらうれしいです。

私たち、ピープルツリーのブランドの方針として「フェアトレード10の指針」というものがあります。

1.生産者に仕事の機会を提供する
  Creating opportunities for Economically Disadvantaged Producers

2.事業の透明性を保つ
  Transparency and Accountability

3.公正な取引を実践する
  Fair Trading Practices

4.生産者に公正な対価を支払う
  Payment of a Fair Price

5.児童労働および強制労働を排除する
  Ensuring no Child Labor and Forced Labor

6.差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
  Commitment to Non Discrimination, Gender Equity and Women’s Economic Empowerment and Freedom of Association

7.安全で健康的な労働条件を守る
  Ensuring Good Working Conditions

8.生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する
  Providing Capacity Building

9.フェアトレードを推進する
  Promoting Fair Trade

10.環境に配慮する
  Respect for the Environment

鈴木

、、ちょっと難しいですね。
フェアトレードはとてもいい仕組みだと思っていますし、皆さんにも知っていただきたい構造なのですが、これが伝わらないのはなぜかと思いながら、もう少し皆さんにわかりやすく、そして私にもわかりやすくなるように、この10の指針について、”スズキフミ・バージョン”をつくってきました。ひとつずつ噛み砕いて、ほどいていきましょう。

1.機械より仕事の機会を

鈴木

「1.生産者に仕事の機会を提供する」について、「機械より仕事の機会を」と言い換えました。これは私たちが常に掲げて考えていることです。

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大量生産されるものの多くは、ミシンなどのマシンをたくさん使って作られています。例えば、ボタン一つ押せば生地が織り上がり、裁断機が裁断をする。人が必要なのは、ボタンを押すところだけです。

でももしそれが手織り、手刺しゅう、足踏みミシン、出荷も全て手でしているとしたら、何人の人に仕事が渡るのでしょうか。例えば「駅の改札」ですが、昔でしたら切符を切る人のお仕事がありました。そのお仕事がなくなって、たくさんの人が出入りできるようになりましたが、その仕事はなくなってしまいました。

ピープル・ツリーがやるべきことというのは、機械をたくさん入れて、たくさんの機械を動かして電力やエネルギーを使うということではなくて、たくさんの人に仕事の機会を渡すことで、たくさんの人たちが収入を得られるようにすることだと考えています。特に発展途上国の弱者と呼ばれる人たち、女性や障がい者、教育を受けていない人たちの仕事の機会をつくりたい。

例えば、いま私が付けているアクセサリーを作ってくださっているのは、ケニアの「ボンボルル・ワークショップ」という障がい者の方たちの生産者団体の皆さんです。

2.いつでも誰が作ったかわかる事

鈴木

「2.事業の透明性を保つ」について、それがどういうことかというと、いつでも誰が作ったのかがわかるという状態だと思います。皆さん、いまお召しになっているものの中で、誰が作ったのかわかるものってありますか?

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このブレスレットは、お花の仕事をしている知人が革細工もやっていて、作っていただきました。

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このブローチですが、前の職場の先輩が手刺しゅうで作ってくれたものです。

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鈴木

どちらも素敵ですね。案外、プレゼントで手づくりのものをいただいた場合を除くと、誰が作ったのかってわからないことが多いのではないでしょうか。

今日、私はなるべく全身をフェアトレードでと思って揃えてきました。それぞれ紹介させていただきます。
トップスはインドのムンバイで作られているもので、「サシャ」という生産者団体が手織りの生地に一つ一つ手仕事でプリントをしてくださっているものです。

スカートは、「アグロセル」というインドの小規模農家の支援をおこなう団体のオーガニックコットンで、「アシシ・ガーメンツ」という生産者団体が作ってくれたもの。アクセサリーは、先ほどのケニアの「ボンボルル・ワークショップ」のものと、お友達のブランドのブレスレット。靴は日本のブランドで、浅草で作られている靴です。

誰がどのような行程で作っているのか、いつでもわかる状態であるというのは、フェアトレードにおいて、とても大切です。ただ、実はこれはとても大変です。

私たちが今取引をしている団体は、小さなグループを含めると150くらいあります。その全てにおいて、この商品はいつ誰が、どこで、どのように作っているのか、生鮮野菜のように分かる状態にしています。少なくとも毎年1~2回は現地に赴き、そこの状態の環境が良いのか、あとは何か困っていることはないかどうか、そして技術支援、サポートでできることがないか、常に確認をしながら仕事をしています。

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質問があります。もし、どこどこの誰々さんが作ったというのが付加価値だということをおっしゃっているのであれば、僕にはよくわかりません。

鈴木

例えばですが、今お召しになっているお洋服が、どのような背景で、どこで誰の手によって作られたかというのは、私は分かったほうがいいと思うのです。

去年、ラナ・プラザの崩壊事故というものがありました。それはバングラデシュのダッカという首都で起きたことで、加害者は”私たち”だと思っています。大量生産のお洋服はどんなふうに作られているか、想像できますか。なかなか難しいと思います。

ラナ・プラザの事故というのは、去年の4月に起きたのですが、起きるべくして起きた事故であり、事件だと思っています。というのも、崩壊寸前の建物で何百台ものミシンを動かして、昼夜問わず縫製工場を動かしていたのです。

事故の前日、ビル全体に亀裂が走っていました。働いている人たちは「きょうはここでは働きたくないです。もうこのビルは崩壊します」と言ったのですが、工場主が「駄目だ。そうしないと今月の給料は全部払わないから、お前たち入れ」と言って入らせたのです。それで3,000人以上の人たちが、縫製工場でミシンを踏んだ途端にそのビルが崩壊しました。

そういった現実があるということが、本当に皆さんに見えない裏側です。この事故で1,000人以上の人たちが亡くなり、そこに対する人権の保障、遺族に対する補償もまだ行き渡っていません。とても補償金が少なくて、これでこの人たちが本当に生きていけるのかと、私は疑問に思います。

裏側で何が起きているのか分からない状態というのは、世の中にはたくさんあると思っていて、これを何とかしていかないと世の中変わっていかないと思います。

”私たち”が加害者だと思ったのは、やはり自分たちが何も知らないふりをして、物を買っている現状からです。知ろうと思えば知れたのかもしれない。でも1着500円のお洋服の裏側で何が起きているのか、ということを考えずに買ってしまう状況が今の世の中にはあると思います。

だからこそ、事業の透明性を保つこと、そのお洋服を誰がどんな気持ちで作ったのかがわかるというのは、とても大切なことなのではないかと思っています。

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3.みんなが主役

鈴木

「3.公正な取引を実践する」について、先ほどラナ・プラザの事故の話をいたしましたが、今は買う人が強い社会じゃないかと少し思っています。買う人が優先、そして中間の業者さんが優先な世の中なのではないかと思うのですが、そこに対して「みんなが主役なんだよ」となればいいなと思っています。

アパレルのお仕事をされている方は今日はいらっしゃいますか。例えばですが、物を作っていて、こちらのほうが安いから、こちらの工場にしましょうという発想はないですか。

私も以前、商品開発の仕事をしていて、どうしてもこのお客さまにこの商品を届けたいから、これはAのメーカーではなくて、Bのメーカーにしようという発想はよくありました。Bのほうが絶対に安いし、しかもとても魅力的なので、Aのできないメーカーよりも、Bのできるメーカーと思ってそちらを選んでいました。

でも、ピープル・ツリーのフェアトレードというのは、手織りのシルクのトップスといったらこの生産者さん、例えば先ほど申し上げた「サシャ」と一緒にやりますと決めています。ただ、アイテムによっては得手不得手もあります。正直なところ、これはこっちの生産者さんのほうが得意だなということもあります。

確かに“アイテムありき”で、別々の生産者さんにお願いしたほうが、より良いものが効率的にできるかもしれません。それでも、こちらの都合で発注したり、発注しなかったりするのではなく、まず“生産者さんありき”でサポートしていくという考え方です。

ですから、織り手にしても、刺しゅうをする人にしても、誰もが主役である状態、誰もが尊重される状態というのを常に意識しています。できることは人によってばらつきがあるので、それぞれできる仕事をできる範囲で上手く分担しながら作っています。

トレンドが来るとその物がとても売れて、次の年は売れないということもありますが、例えば今年は白いパンツが売れたのですが、来年は発注が来ないという状況は、手織りの生産者には、困ります。来年はどういったことをしたら、その人たちに継続をして発注ができるのかというのを意識して商品開発していくというのが、私たちに課せられたタスクです。

作っている人たちが、自尊心を持って働ける状態にするというのが「みんなが主役」、いわゆる「公正な取引を実践する」ことです。

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4.買い手と作り手が平等である事

鈴木

「4.生産者に公正な対価を支払う」について。「フェアトレードって公正な対価を払うことでしょ」ってよく聞くと思いますが、この”公正な対価”ってなかなか難しい言葉だと感じています。

公正な対価というと、工場で作られたものに対して、そのプロダクトのコストを払うというイメージだと思います。「その商品はこれぐらいの市場価値です、だからこの金額を支払います。対等ですよね。」という発想。

ただ、私たちがやるフェアトレードというのは、プロダクトに対しての対価を払うだけではなくて、生産者さんたちがプロダクトを継続して作り続けられる環境に対しての対価を払います。

例えば、バングラデシュの「タナパラ・スワローズ」。ここは学校が併設されています。タナパラ村というのは、1971年のバングラデシュの独立戦争のときに、男性が大量に虐殺されてしまった地域なのです。そこから女性たちが働かないとどうにもならないということになり、「何かできることはないか?」「はた織り機がある」ということで「はた織り機で物を作っていこう」と始まった団体です。

このプロジェクトがはじまった時、働こうとする女性たちのお子さんの面倒をみる人がいませんでした。ただ、子どもの面倒をみながらだと働けない。この課題を解決するために、学校や託児所が併設されました。ここで作られたお洋服に関しては、学校の運営費も商品の価格の中に含まれています。

5.児童労働、強制労働がない

鈴木

「5.児童労働および強制労働を排除する」について、これは元の10の指針のテキストと同じです。途上国の生産現場では、実際にたくさん児童労働が行われているのが現状です。さまざまなNPOやNGOの人たちが、変えていこうと頑張っていらっしゃいますが、子どもたちを学校に行かせるよりも、働かせて生活を支えてもらおうという発想のほうが、先に立ってしまう状況なのではないかと思います。

たくさんのブランドの中でも「児童労働、強制労働は絶対やっていません」と保証できるブランドはもしかしたら少ないかもしれません。そこの透明性は、知ろうと思っても間に入っている商社や工場が隠してしまうことも多々あって、なかなか見えづらい。

やはりフェアトレードというものは、絶対に児童労働、強制労働があってはならないと思っています。

6.女性やマイノリティを働きやすくする

鈴木

「6.差別をせず、男女平等と結社の自由を守る」について。今日ご参加の皆さんはだいたい6割くらいが女性ですが、皆さんの会社では何割くらいが女性ですか?

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ピープル・ツリーの商品を作っている生産者さんの8割ぐらいは女性ですが、バングラデシュやインドなど一般の縫製工場で働いている人たちは男性の割合のほうが多いです。女性が手足のように働き、男性がそこに指示をしていく。縫製工場の中でも女性がたくさん働いている所もあるのですが、トップの人は男性です。そもそも女性が外に出ていくこと自体が少なく、地位を向上をするためのチャンスもとても少ないんです。

また、女性の働きやすさという面では、先ほどの「タナパラ・スワローズ」のお話でも触れましたが、子育てとの両立を考える必要があります。例えば、お子さんの面倒をみながら自分の空いている時間に編み物や刺しゅう、縫製を進めたりと、家でできる仕事を増やせば、働きやすい環境になります。

女性やマイノリティが働きやすい環境をつくること。お互いのできないことに目を向けるよりも、できることや得意なことをお互いに認め合うというのが、この社会ではとても大事なことで、たくさんの人がいろいろな多様性を持って、いろいろな能力を持って働いていると思います。

できないことがあるのは当然。私にもできないことはあるだろうし、周りの人にもできないことはあるかもしれないけれど、できることは絶対あって、そこが認められて尊重できるような社会というのをなるべく目指したいです。

7.安全な労働環境を守る

鈴木

「7.安全で健康的な労働条件を守る」について、ラナ・プラザの件も本当にそうなのですが、やはり労働環境というのはとても大事です。

縫製工場ではミシンをたくさん使うのですが、配線がショートすることが多々あり、よく起きる事故では火災がとても多いです。しかも、先立つ納期があって、発注元からのプレッシャーの中、なんとか間に合わせようとするがために、「とにかく縫製しろ」と言って労働者を工場に押し込めてしまう。そんな状況が重なって、押し込められた工場が火事になっても、逃げられずにたくさんの死者が出る。

安全な労働環境を守ること。これは意外とどの国でもまだまだ守られていないというのが現状です。

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8.組織づくりをサポートする

鈴木

「8.生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する」について、「キャパシティ・ビルディング」とはよく国際協力や地域開発の場で耳にする言葉です。ここでは「組織づくり」としていますが、一言では語り尽くせないことです。

例えば、生産者さんたちの組織としての能力を高めていくために、バングラデシュの5つの生産者団体に集まっていただいて、お互いの染色の技術をシェアする機会を設けました。

お互いに、僕はこういうふうにやっています、私たちはこういうふうにやってますというのを報告しあいます。普通でしたら、工房にしろ企業にしろ、自分のやっていることは、シェアしたくないんじゃないかと思います。企業秘密ですし、例えば自分たちがとても優秀だと思って、プライドを持っていたら、その行程を人に教えて真似されたくはないです。

ですが、生産者団体さんたちに、「もっとみんなでお互いにサポートをし合って、フェアトレードというものを普通のものにしていこう」と言ったときに、「お互いが情報を共有し合ったり、サポートし合ったりができなかったら意味がないよね」と、工房さん同士が集まってシェアし合ったのです。

そうすると「この行程が抜けてるね。」とか「この行程にこの化学染料を使ってはいけないんじゃない」というのがわかってきて、お互いがわかりやすくシェアしたことで、「じゃあ今回からはこのやり方でやってみよう」「僕たちはこのやり方が得意だから、このやり方を続けよう」というふうに、何か次のステップに進めるようになる。

そして私たちが現地に毎回染色のたびに入らなくても、お互いが何かあるときに「こんな問題が起きちゃったんだけど」とか「糸の色がすごい変なんだけどどうしたらいい?」というときに、それぞれ連絡をしあって「それはこうしたら防げるよ」というのをサポートし合ったりするようになりました。

このように、たくさんの話し合いをしながら、お互いに運営しやすい組織づくりを考えていくこと。このサポートをし続けていくことが、キャパシティ・ビルディングを支援することだと考えています。

9.変化を促す

鈴木

「9.フェアトレードを推進する」について、「変化を促す」と言い換えましたが、フェアトレードを広めていくことが私たちの仕事です。

例えば、ラナ・プラザの事故を忘れないために、この事故が起きた4月24日を毎年「FASHION REVOLUTION DAY」と銘打って、“変化を起こすとき、ファッションに変革与える日”とする国際的なキャンペーンがあります。

ファッションに対して何が自分たちに今できることなのかというのを発信している取り組みで、モデルのアンジェラさんに来ていただいて、ファッションに濃く関わる彼女自身がどのように現地のことを考え、ファッションに対して意識を変えていったらいいのかということを話していただいたり、フェアトレードのファッションショーをやることで「フェアトレードってクラフトっぽい服だけじゃないんだ」ということを改めて知っていただくきっかけをつくったりしています。

10.環境に配慮する

鈴木

最後は「10.環境に配慮する」について。作る工程で、環境に負荷をできるだけ与えないことを考えています。

例えば、オーガニックコットンを使うこと。綿を作る行程は、農薬をたくさん使ったほうが効率良くできるし、人の手を借りずに機械であっという間に綿を取ってしまえばそれでいいのですが、そうするとたくさん土壌に負荷を与える状態になってしまう。原料の綿に限らず、その土地の生態系を壊さないことを心がけています。

参加された皆さんからの質問

鈴木

この1から10が、私たちが大事にしているフェアトレード10の指針です。もう少し具体例を入れたかったのですが、皆さん質問などありませんか?

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途上国などで良いことをしてたくさん雇用を生むというのは、とてもよくわかったのですが、それを維持していくためには、日本でたくさん売る必要があって、それは合理的にやっていく必要があると思います。そのための工夫や、マインドが高い人ではなく、普通の人にいかに売っていくかというのは、どのようなことを工夫されているのですか?

鈴木

ありがとうございます。フェアトレードだから買ってもらおうというよりも、かわいいから買ってもらおうという人が1人でも増えたらいいなというのを、常に意識しています。

今日は10の指針だけ話させてもらいましたが、お洋服を企画するのは、その先のトレンドを読まなければならないので大変です。私たちのお客さまは、20代から40代の女性が多いです。そういった女性たちにお買い物をしていただけるような動向や、どういったものを気に入ってくださっているかを、常にイメージしながらものづくりをしています。

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どうしてもアパレルだと、ばっちり企画した“アイテムありき”になると思うのですが、先ほどのお話しにあったように“生産者さんありき”でつくる場合って、どのようにされているのでしょうか?

鈴木

これは本当に私も、みんなで作り上げるときに、とても大変なパズルをやらなくてはいけないのですが、作ってくださる生産者がいて、それに対して、今年はこういったお洋服をやっていこうという企画がきちんとあるのです。そこにどうやったら生産者の皆さんがはまるかなと考えて決めています。

ただし例えばですが、私たちがやっているお洋服の中でできないこともたくさんあります。例えばウールのコートなどは、やりたいのですができないのです。なぜならフェアトレードのウール自体がなかなか手配できないから。

そうなったときは、代わりに何ができるかなというのを考えます。できる中でお客さまが満足できることは何なのだろうと。織り手さんのいいところにフォーカスして、何ができるかなと考えます。

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自分でも整理しきれていないのですが、ここの生産者さんよりも上手くできる人が他にいるのをわかっているけれど、そこは使わないということは、逆に言うと質を落としてよいとも見えてしまいませんか?

鈴木

例えば、バングラデシュの生産者が作る紙で、厚手で、いわゆる市場でよく求められている紙ではないのですが、とても風合いが面白いものがあります。その工房は薄手の紙は作れないのですが、独特のいろいろな技法を持っていました。

この生産者さんたちに薄手の紙を作る技術をつけてもらうよりも、できる技法を活かして尊重していきたいというのが、私たちの考え方です。

「普通に市場マーケットとして考えたらこちらのほうが売れる」と発想するのではなくて、もしかしたらこの人たちの、こんな部分を伸ばしたら、世の中でも面白いと思ってもらえるのではないかと考えます。質を落とすのではなく、その人たちの面白いところを取り上げて、お客さまに提示するという発想でものづくりをしています。

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機械や電気よりも手仕事を増やすというのは、現地の人たちの生産できる価値を増やす機会を奪って、近代化を阻害することにはなりませんか?

鈴木

電気や機械は本当に便利なのですが、ネパールもバングラデシュもインドもエネルギー不足で、特に地方では電気を安定的に供給するのは困難なんです。停電が本当によく起きます。電気に頼らないとできない状態を作ってしまうと、どうしても電気が届かなくて仕事ができないことも多いのです。

また、この間インドに行った時、昼間は電力需要が高いので電気の量を下げられているために機械が稼働できないという理由で、勤務時間を夜に変えていました。地域によっては、夜に外へ出るのはとても危険です。

日本だと電気に頼ったほうが早いし安全だと思いますが、そうした生活環境だと電気ミシンよりも足踏みミシンのほうが合っているんじゃないかと思います。

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フェアトレードから学ぶしあわせになるヒント

鈴木

たくさんの質問、ありがとうございます。最後に、私がフェアトレードから学んだことをお話させてください。

私自身は大きな企業で働いた経験もありますし、このピープル・ツリーで働くきっかけも、特に大きな理由があったわけでもありません。働いてみて思ったのが、今まで買ってくださる方たちを見てばかりいたなって。お客さまばかりを見て仕事をして、お客さまに買っていただくためにはどんなものを開発したらいいかということに一生懸命働いていたのですが、作り手のことを見なくてはいけないのだということ、そして見ることがこんなに楽しいのだというのが、この会社に入って思えたことです。

今までは、自分が一人で何かができる、一人で何でもやろう、成功させてやろう、そして周りの人よりも絶対私のほうが優れていると思ってきて生きてきましたが、このピープル・ツリーに入ることによって、“できない”と思われている人たちが、切り口を変えることで“できる”と認められること、そしてそれが素晴らしいということを発見できたことが、フェアトレードを知ってとても良かったことです。

今日の講座のタイトルに「フェアトレードから学ぶしあわせになるヒント」とあります。
私から言えるヒントがあるとすると、自分が働いている会社の環境で、あの人嫌だな、なんでこの人こんなにできないんだろうと思う人はいると思いますが、その人をできない人と絶対に思わないでほしいのです。きっとその人にもできることがあって、お互いに認め合えたり、そこを伸ばし合えたりできるんだと思います。

本日は、ありがとうございました!

講座は以上です。
この後の懇親会でも、鈴木さんを囲んで、教室さながらのディスカッションが尽きない盛り上がりでした。

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講 師

FumiSuzuki
鈴木 史

ピープル・ツリー 事業開発シニアマネージャー

高校在学中にアメリカに留学。大学卒業後、通信販売の出版社に入社し、新商品開発、プロモーション企画など担当する。
退職後、文化服装学院に入学。卒業後、広報やデザイナーの仕事を経て2008年にピープル・ツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)へ入社。
現在、商品開発の企画・制作から、営業、マーケティングまで一連の業務を統括している。

ピープル・ツリー