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2014年11月19日(水) Think College Vol.25

暮らしの中の聞こえづらさを考える

講師:蒔苗 みほ子 / NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
今回のテーマは「聞こえのバリアフリー」です。

身近に「聞こえづらさ」を抱えている人はいませんか?
映画やテレビなどの映像作品に、字幕や音声ガイドをつけて映像にアクセスでいる人を増やす活動をしている、NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)の蒔苗みほ子さんと、難聴当事者の西山さんを先生に、日常の中で聞こえづらさを抱える方へできること、一緒に考えてみませんか?

講 座 レ ポ ー ト

「聞こえづらい」ってどんなこと?

蒔苗

こんばんは、NPO法人メディア・アクセス・サポートセンターの蒔苗みほ子と申します。本日はどうぞよろしくお願いします。

私は以前、映画やテレビドラマのスクリプターとして、主に撮影のときに監督のそばで撮影シーンの様子や内容を全て記録して完成台本を作る仕事をしていました。この完成台本ですが、聴覚障害者用の字幕として使われることがあります。子どもを産んだ後、なにか私が新しくできることはないだろうか思った時にキーワードとして思い浮かんだものはそれでした。

MASCは聴覚障害者用の字幕や視覚障害者用の音声ガイドの普及促進をする団体です。字幕や音声ガイドがあれば、映画の聞こえづらさによって鑑賞を諦めている人も、自分の好きな映像作品を多くの人と一緒に楽しむことができると考えて活動を始めました。

仕事の中で出会った耳が聞こえづらい方々の存在を知ることは自分の価値観、日々の人との接し方や自分の暮らし方を変えるような気付きでした。本日は皆さんと一緒に、聞こえづらさや難聴者の生活の工夫について考えたいと思っています。

補聴器やスピーカーなどを使ったり、周りの人が大きな声で話したりして音のレベルを上げると聞こえやすくなるのが伝音性難聴です。
歪んだり響いたりして、言葉の明瞭度が悪く聞き取りにくいのは感音性難聴といいます。感音性難聴の場合、補聴器を使って聞こえる音を大きくしても聞き取りやすくなるわけではありません。
聴覚障害はこのように伝音性、感音性、両方が合わさった混合性難聴、この3パターンに分類されます。

「聞こえ」の単位はデシベルです。健常者が聞こえる最も小さい音を0デシベルとして、数字が大きくなるほど大きな音を表します。20デシベルがささやき声です。今講義をしている私の声が70デシベルぐらいです。100デシベルは電車がガード下を通る音です。

聞こえにより障害者と認定され、身体障害者手帳を交付されるには判定基準があります。

身体障害者手帳が交付されるのは、聴力レベルが70デシベル以上の高度難聴の方からです。70デシベル以下の音、例えば車が近づいて初めて音に気付く方や、普通の会話が聞こえづらい方には、手帳は交付されないのが日本の現状です。日本の基準を国連世界保健機構の基準(41デシベル)に合わせると、このような方々も障害者として認定されるので、手帳交付の基準を下げるデシベルダウン運動という取り組みも行われています。

このように聞こえづらさには多様性があり、さまざまな工夫が必要です。本日は難聴の当事者として、MASCを手伝ってくれている西山さんに来ていただきました。

健聴者と難聴者のはざまで

西山

西山です。よろしくお願いします。

私は4歳のときに難聴が判明しました。いまは言語聴覚士の下で発音の訓練をし、普通に話せています。小学校4年生のときに補聴器を使い始めましたが、難聴とはいえ、幼稚園から大学生の今も通常学級で過ごして、健常者に混ざって生活をしてきました。

私は、両耳の感音性難聴です。右耳の聴力レベルが高度難聴、左耳が中等度難聴に相当するため、身体障害者手帳の6級をギリギリ取得できました。

右耳はほぼ聞こえないので、左耳の聴力に頼っています。左耳は、耳かけ式の補聴器を使って聞こえを補っています。きちんと会話はでき、音声言語ベースの生活をしています。
しかし私は左と右で聴力バランスが悪いので、誰かが話していることは分かっても具体的に誰が、何を話しているのかが分からなかったりします。

今の話を聞いて聴覚障害者らしくないと皆さん思ったかもしれません。私も普段手話などを使わず会話できているだけに聴覚障害者というほど自分の聴力は悪くないと思っている節があります。しかし一方で世間的には聴覚障害者という認識をされるので、自分はどちらなのかなと思ってモヤモヤしています。

ここで、参加者同士で聞こえづらい人の暮らしとその解決策を考えるワークショップを行いました。

――

自転車のベルがどこから鳴っているかわからない場合、どのように工夫していますか。

西山

そうした時は極力、端を通るような対策しかできません。後ろからどんどん近づいてきて、真後ろに来てやっと、私はずっとベルを鳴らされていたのだと、すごくショックを受けますが、そこで落ち込まないようにしています。

――

入試の際など、英語のヒアリングの試験は、どのような形で対処されましたか。

西山

英語のヒアリングは普通にやっていました。なるべくスピーカーの前に居たり、向きを動かしてもらったりしていました。センター試験では、私は補聴器をしていて、イヤホンをその上からつけることは無理でした。そのため、スピーカーで別室受験をするために、身体障害者手帳をとりました。できなくても落ち込まないようにとは思うのですが、やはり落ち込みます。

――

電車を使うことがあると思います。電車で事故があったときのアナウンスは聴覚障害のない人でもとても聞き取りづらいのですが、そのような時はどうされていますか。

西山

電車が遅延したときは、駅員さんのアナウンスで他のお客さんが一斉に電車から出ていくので、すごく不安になっていました。周りのお客さんは急いでいるので話しかけられないですね。駅員さんに聞いたり、スマートフォンで電車の運行情報を素早く検索したりします。

――

聞こえづらさのために、例えば音楽など、楽しみや趣味の幅が限定されますか?

西山

私の趣味は読書です。普段学校などで一生懸命耳を使っているので、趣味の時間は耳を使いたくないです。しかし、補聴器に直接音を入れるアイテムを使って音楽を楽しんでいる人もいます。便利な物がたくさんあるので、楽しみの幅は狭まったりはしませんよ。

――

東日本大震災のときにご不便に感じたこと、震災時の備えについて教えて下さい。

西山

私は震災のときに、周りの人の話す声で、今何か起こったらしいということを知りました。防災無線は、私には聞こえないのではないかと不安です。補聴器の電池なども物資で届くのかなと不安になり、そのような備えをもっと意識してやらなければいけないと今思いました。

蒔苗

例えば災害時に西山さんの補聴器に気付いて「私に何かやることありますか」などと聞いた人が居たらどのような対応をしますか。

西山

私は気付いていただいたことに驚くと思います。「聞こえていないからこうしたほうがいいでしょう」と決めつけるのではなく、「何をしてほしいか」と聞かれれば「このようにしてほしいからお願い」と言うことができるので、そのようにコミュニケーション取ろうとすることは、大切だと思います。

バリアフリー映画体験

蒔苗

次はバリアフリー映画体験をしながら、聞こえづらい方について考えます。西山さんはテレビや映画を字幕付きで見ますか。

西山

はい、常に字幕付きで見ます。映画は基本的に友達に誘われたときは、邦画でも行きます。自分で決められるときやDVDを借りてきて見るときは、洋画も結構見ます。

蒔苗

邦画は近年字幕が付いている作品が増えていますが、その本数は少なく、字幕付きで見られる回数は限られています。ちなみに洋画は外国語を翻訳しているため、必ず字幕付きがあります。聞こえない、聞こえづらい方には、洋画ファンが圧倒的に多いです。

この後、洋画の同じシーンについて、
通常字幕付き(音無し)、通常字幕付き(音あり)、バリアフリー字幕付きで、比べて観てみました。

蒔苗

音がないとき、翻訳字幕だけでストーリーを追うことがいかに難しいことか、わかっていただけましたか?

映画中では口元が見えなかったり、画面上にいない人物の声があったりして話す人がわからないことがあります。そのためにセリフの前に話す人の名前を表示します。また、相槌や、聞こえていても聞き流してしまうような音が伝える情報も字幕化して、文字だけでストーリーを追えるように、工夫がしてあります。

私たちは普段活動の中で、聴覚障害者対応バリアフリー字幕を作っています。これは、翻訳字幕にひと工夫したものともいえます。このような字幕があれば聞こえづらい人も、日本映画や外国語映画を楽しむことができます。

こうしたバリアフリー字幕を誰でも手軽に付けられるように、私たちMASCで字幕制作ソフト「おこ助」を開発しました。テキストを書き起こしてタイミングを入力するだけで、聞こえの多様性に合わせたオリジナルの字幕を作ることができます。

今回、改めて「聞こえづらさ」について想像することで、自分が意外と音の情報に頼っていることに気付いた方も多かったのではないでしょうか。

想像力でできる支援とは、つまり聞こえづらい相手、目の前の相手のことを考えたもうひと工夫であるということです。勇気を出して、「何が必要ですか」「何かできることはありますか」と聞いてみる、もし「結構です」と言われてもへこたれないで、この人はご自身でできて良かったのだと思う。聞こえづらい人には、周りの人にお願いできたらいいことが意外とあります。つまり、聞こえる私たちにできることはたくさんあるのです。それが自然にできればいいなと思います。

今日ご紹介できたのは、ほんの一例に過ぎませんでしたが、皆さんが暮らしの中の聞こえづらさについて考えるきっかけになれば、非常にうれしいです。ありがとうございました。

講 師

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蒔苗 みほ子

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター 事務局

もと映画スタッフ。スクリプターという作品の準備から撮影、仕上げまでに携わり、作品全てを把握する部門を担当していた。完成台本の制作などから字幕に興味をもち、MASCの門を叩く。映画鑑賞を諦めている人を一人でも減らせたらという思いで普及推進につとめている。

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター