西武西武渋谷店

2015年4月15日(水) Think College Vol.30

“ものづくり”で生きていくには?
〜マーケットプレイスで広がる世界〜

講師:新田晋也 / iichi ディレクター

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
4月のテーマは「作り手とつかい手の新しい関係をつくる」こと。
洋服やアクセサリー、食事につかう器など、あなたの日常の暮らしのなかには、だれがつくったのか、作り手の顔が思い浮かぶものはどのくらいあるでしょうか。

今、日本の「ものづくり」が変わろうとしています。
作り手の意識も、その思いがこもったものたちをつかう人のとらえかたも、これまでとはちがってきているようです。その変化に目を凝らし、これからの手仕事のあり方や働き方、ひいては生き方というものに、思いをめぐらせてみませんか。

講 座 レ ポ ー ト

アパレル業界で出会った「ものづくり」

新田

iichi(いいち)というのはインターネットのサービスです。メディアではよく「C to Cのマーケットプレイス」と紹介されますが、つまりは個人対個人の取り引きを行うECサイト。そこで扱っているのは、「手仕事」です。基本的には、作り手が、商品に興味をもった人とつながって、会話をしながら売買する。それをフォローするのがiichiです。

ぼくは、もともとファッション業界に10年ほどいました。インポートブランドの販売を経て、ネット通販に転職。いろいろなファッション雑誌の通販ページに掲載する商品のバイイング、つまりメーカーに足を運んで仕入れをする仕事を8年くらいやっていました。

そこで最後にかかわったのがナチュラル系のファッション雑誌でした。「ナチュラルで丁寧な暮らし」がコンセプトだけに、掲載されるブランドには、日本国内で洋服を製造しているメーカーが多かった。そういうところとのつきあいは初めてでしたが、とにかく、生地ひとつとっても、作り手のこだわりがすごかったんですね。

それまでは、たとえばメンズファッション誌なら、プリントTシャツの企画なんかを「ここにガイコツつけりゃいんじゃね?」みたいなノリでやっていた。そんな商品に6000円の値段をつけて、1000枚くらい軽く売れる時代でした。

それだけに、なおさらナチュラル系ファッションのブランドに感銘をうけたんです。ファッションというのは移り変わっていくものだから、少しでも先を……と追いかけていたぼくにとって、ものをつくるということにコミットしている人たちの姿勢は新鮮でした。そこから「ものづくり」にどっぷりはまっていったんです。

ものづくりに真摯に向き合うブランドとおつきあいするうちに、よくいわれる「日本製」「メイドインジャパン」の問題を肌で感じるようになりました。

アパレル業界で、日本国製品が全体に占める割合をご存じでしょうか。わずか4%です。ニット、カットソーにいたっては1%後半〜2%。大量につくるならたとえば中国に発注したほうがコストも下げられ、仲介するメーカーは小売店に安い値段を提示できます。もっとも、最近では中国でも人件費が上がり、日本に揺り戻しがくるようになってはいます。

ところが、もう日本にはつくれる人も工場もないんです。足りない人手は海外研修生をたくさん受け入れ、なんとかできる。これでかろうじて「国産」が回復するかと思いきや、洋服の需要そのものが落ち込んできました。人口も頭打ちだし、市場も縮小しているし、もはやたくさんつくる必要がなくなってしまった。

結局、こうした要素が絡みあって、国内のアパレル業界はどんどん衰退しています。アパレルに限らず、伝統工芸品とか、いわゆる普通の生活工芸品のメーカーなども同じような状況です。「手仕事」全体が、危機に瀕しているわけです。

メイドインジャパンを「持続的なものづくり」に

新田

「日本のものづくりを元気に」みたいなキーワードで、伝統工芸の職人と、デザイナーがコラボレートしてプロダクトをつくる試みなどもありますよね。聞こえはいいし、プロダクトとしてはおもしろいものが出てくるんですが、でもそれって一時的なものでしかない。ある種、メイドインジャパンというトレンド品みたいな感じなんですね。流行が去れば、また衰退の一途をたどっていくしかない。

それを「持続的なものづくり」にするにはどうしたらいいんだろう。このブランドも、あのメーカーも、跡継ぎがいないまま消えていくのか。自分になにかできることはないか。そんなふうに、モヤモヤしているときに、iichiに出会いました。

作り手が自らプロモーションできて、やりとりしながらオーダーメードできるというのは、すごくおもしろい仕組みだと思います。個人なら、生産単位も1点から可能です。自分がつくりたいものをポンとつくって、それが商品になる。

これがアパレルブランドだったら、展示会をやって、ある程度まとまった数の受注がないと、ものがつくれません。1000人に1人欲しい人がいたかもしれないワンピースは、そこでアウトです。ただ、個人の作家さんだったら、それがつくれる。

世の中でボツになってつくられなかったものとか、アイデアとか、そういったものが1個から具現化できて、それが欲しい1000分の1の人に届けられるっていうのはすごい。そう思ったぼくは、iichiを知ったその日のうちに、iichiの社長にメールを打ちました。

それが深夜1時ごろだったので、翌朝見たらとんでもない恥ずかしい、暑苦しい文面だったんですけど、それを送りつけたら、「ちょっと手伝ってよ」と受けてくれた。それからぼくは、バイヤーをしながら、自分の会社で仕入れるのは難しいけど「これは!」という作り手をみつけては、「うちでは取り引きできないけどiichiどうですか」と声をかけるところからはじめました。

そのときの作家数はまだ3000人程度でしたが、サービスのスタートから約3年で、作り手は約1万5000人になりました。今、月間で40万人のお客さんに見にきていただいています。その多くはクラフトとか、ハンドメイドが好きな人で、男女比は1対9。サイトに上がっている物品は、もうすぐ30万点に達しようとしています。
※2015年10月現在、作家登録数約1万7千人、35万点近くになっています。

ぼくらのアーツ・アンド・クラフツ運動

新田

様式美や技法の粋をこらした伝統工芸品、そこに実用性や耐久性もかねそなえた民芸品……いまは生活工芸品といいますね。それから、さまざまな表現技法をつかって自分がつくりたいものを表現するという創作のアート作品。自分としては、これらを総称して「クラフト」と呼んでいます。

ちょっと古い話ですが、19世紀のイギリスで、アーツ・アンド・クラフツ運動というのがありました。産業革命が起こり、人口の集中化が進んで大量生産が可能になった時代、膨らむ需要に応えてどんどん工業製品が供給された。それによってヨーロッパでは粗悪品がいっぱい出回るようになってしまいました。そこでウィリアム・モリスという家具デザイナーが、「熟練の職人による質の高い工芸に戻ろう」と声をあげたんです。それがどんどん広まって、アーツ・アンド・クラフツ運動が巻き起こった。

今の状況って、ちょっとそれに似ている気がします。時代も背景も違いますが、考え方とか、そこに戻りたくなっている心情に、すごく近いものを感じるんですね。

今は、誰もがセルフプロデュースして宣伝できるし、iichiみたいに直接顧客とのつながりをもてる販売ツールもある。作り手にとってはとてもいい時代です。この変化のなかに、ものづくりにたずさわる人が減っているという問題を解決する鍵がありそうな気がしたんです。
具体的にはまず、作り手の、職業としての「価値向上」があります。

ぼく自身のことを思い出してもそうなんですが、ファッションといえば雑誌見て「うわ、これかっこいい。これ着なきゃダサい!」みたいな強迫観念にかられて、そこに載っているような格好をしていた。すごくステレオタイプの情報受信だったんです。

ファッション業界で日の目を浴びて来た職業をあげると、まずデザイナー、プレス、バイヤー。いずれもアウトプットする場にいる人たちです。でも、ものを作って生み出せる人がいなければアウトプットするという仕事は成り立たないのではないかと思うんです。実際、いちばんかっこよくていちばん尊重されるべき存在って、ものづくりをしている人じゃないでしょうか。

iichiを通して、ものをつくっている人を尊重しながら、そういう価値観を提唱していくことが、ものをつくる仕事に就きたいという感覚をふやすのではと思うようになりました。

あとは、働き方も多様化していると思います。たとえばWeb業界では自分の能力の範囲内でフリーランスになって、いろんな会社と契約したり、クラウドソーシングをいかしてインターネット上で新しい仕事を自分一人でおこしたり、地方にいながら都内の大企業から仕事を受けて生活していく……そんな新しいスタイルが注目されています。それって、ものづくりにもあてはめられるじゃないかと。

たとえば本格的な機織り機なんて、ふつう自宅におけるシロモノじゃない。でも、それを使いたい作家は多い。だったら、機織り機のある工場の中で職人として働きながら、残りの時間で自分の好きなものをつくるという考え方もできますよね。職人としての腕をみがきながら創作活動もできるかもしれない。そういうふうに、工房・工場と個人作家や職人をつなぐ方法もある。iichiを介して、そういうマッチングも可能になるかも知れないと考えました。

市場規模はゲーム業界に匹敵

新田

写真は、30年間続いているクラフトフェア松本です。全国から260組くらいの作家が、松本のあがたの森公園に集まるフェアで、3日間の開催期間に5万人が来場します。フジロック並みですね。iichiが現実に落とし込まれたらこうなる、というマーケットイベントだと思います。

iichiでサービスのおもしろさに気づいたぼくですが、クラフトそのもののおもしろさについては、松本に行って初めて思い知りました。

ほんとに面白い、不思議なものをつくっている人がいっぱいいるので「これ、なんですか?」から話が始まるんです。会話を通じてその人とのつながりができて、その関係の証しとして買っているようなところもあります。たとえばガラスの器を買うときに、「今ちょうど、花瓶をさがしてた」という人ももちろんいますが、「あなた去年も出てたわね、がんばってるわね」、「じゃあ今年はこれ買ってくわ」と、その人を応援する投資みたいな買い方をする人もいるんです。

ホビー業界では、ものづくりに携わる人は、だいたい1千万人いるととらえられています。針や糸、資材などを買って、なにかものをつくっているという市場規模は、およそ4000〜5000億円。これはゲーム業界に匹敵します。しかも、これはあくまでも手芸店とか材料メーカーの算出です。クラフトフェア松本では、3日間で数百万円を売り上げる人もいるのですが、そういう数字は算入されていない。クラフト市場の大きさは推して知るべしです。

みずほ総研の「感性価値の市場規模推計による調査研究」というのもあります。「感性価値の市場」というのは、生活者の感性に訴えかけることで共感や感動を生み出し、それが原動力になって、もたらされる経済規模ということらしいですが、これが、2.5兆円と見積もられています。

考えてみてください。インテリアや家具、洋服、鞄、生活雑貨……クラフトって日常的なあらゆるものにフィットします。まだまだ可能性がたくさんある分野なんです。

実際、クラフトフェアには百貨店のバイヤーや全国のセレクトショップ、ギャラリーから大勢の関係者が来場します。そこで実際の売買だけではなく、ギャラリーでの個展の打診なども巻き起こっているんです。新しいブランド価値が生まれつつあるといえます。

iichiでも、バイヤーと作り手をつなぐイベントに取り組んでいます。これは法人向けなので一般の方は来られないのですが、2月に行ったときは、ジュエリーや小物のインポーターの展示会に個人クラフトの作家のためのブースを設けて、30名の作家さんに出てもらいました。浅草と鎌倉には、iichiのお店もあります。ここは実際に手に取って見てもらいたいものを置いたり、自分たちでセレクトした作家さんの企画展を開催するギャラリーショップになっています。

ぼくがかつていたアパレル業界は、ギャルやストリート系、ギャル男といった”はめ込み”と”くくり”で伝えやすくして、その先に市場を生む世界でした。でも、クラフトに関しては、ひとくくりにすることはぜったいできない。時代によって変化する多様なものをクラフトとまとめることはできる、しかしひとりひとり作り手のモチベーションはちがう。そのことを注視しながら、作り手と買い手のつながりをつくっていっています。

参加された皆さんから新田さんへの質問

ーー

iichiの返品率はどのくらいですか?

新田

iichiの返品率は3%以下です。一般なカタログ通販と比べても非常に低いです。買い手と売り手が個別に連絡を取り合い解決できるので、返品にいたらない。また、そもそも手仕事でつくられたものに、きれいな既製品のような安定感が求められていないということもあります。

ーー

iichiのようなECサイトが世の中で流行ってきてる気がします。この流れはどうなっていくでしょう?

新田

今、ぼくたちの日常で、ネットにつながっていない日はありません。ですが、インターネットはつながるためのツールにすぎない。その意味で、ECサイトはフリーマーケットと同じです。むしろ、ぼくが考えるすばらしい未来像は、若い人がつどう渋谷の109(イチマルキュー)が全部クラフトのお店になることでしょうか。「だれかのつくったものをつかう暮らし」を、それくらい普遍的に広げていきたいということを私たちは考えています。

さいごに

新田

ハンドメイドブームで、百貨店でも「先生」と呼ばれるような方ではない作家のものを扱いはじめています。クラフトや工芸に対して求められていることが、時代によって変化しているのでしょう。

アーツ・アンド・クラフツ運動みたいに開放的になって、今の人たちが、今の考え方に適合したものをつくるというのはすごくおもしろいことだと思います。さまざまな視点から”つくる”ということを考えられるようになってきたからこそ、仕事として作家をやる人とか、働き方を模索するとか、新しい生き方のひとつとして、「ものづくり」という選択肢もあるんだって。

クラフトはもっと世の中に認知されて評価されていいものです。それをiichiを利用する人に伝えたいと思っています。

講 師

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新田 晋也

iichi ディレクター

1983年生まれ。
都内の百貨店系列セレクトショップで数年勤務したのち、ファッション雑誌系Eコマースサイトで約8年バイヤー職を経験。その後、日本のものづくりの未来に深く向き合い関わっていきたいという強い想いから、個人的に関わりはじめていたiichiに入社。現在iichiでは、鎌倉、藤沢、浅草にあるギャラリーショップ運営や、百貨店でのポップアップ企画、開催する様々なイベントや対外事業を通して、作り手や手仕事に携わる様々な人をつなぐ役割を担う。