西武西武渋谷店

2015年5月20日(水) Think College Vol.31

東北の魅力を学び、伝える。
〜ものづくりを軸に、土地土地に根付いた暮らし方を見つめる〜

講師:金入健雄 / 東北STANDARD代表、唐津宏治 / 東北STANDARD副代表・ドローイングアンドマニュアル プランナー

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
5月のテーマは「地方と東京の関係性を考える」こと。

あなたのふるさとはどこですか。「東京」「地方」ときいて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
その土地土地にしかない魅力を掘り起こし、普遍的な価値(スタンダード)を見いだそう。東北からのそんな問いかけには、じつは暮らし方、生き方にまで通じる深い意味がありそうです。
都市とローカル、それぞれの視点から、暮らし方、生き方の意味を問い直してみませんか。

講 座 レ ポ ー ト

伝統工芸に学ぶ

金入

東北STANDARD」は、ショップをやりながら東北の工芸品や文化を集めて映像やプロダクトを発信し、一緒に学んでいこうというプロジェクトです。

「東北STANDARD」で検索していただくといろいろ出てくるのですが、たとえば「南部裂織(さきおり)」。これは、使い古しの布を裂いて織り込んだ織物で、青森県八戸市の伝統工芸です。江戸時代の八戸は冷夏が多く、山背の冷たい風が吹き、米のとれない貧しい土地でした。厳しい環境のなかで農家の女性が布団や古い着物を裂いて織り直し、自分たちの着物にしていた。そこに東北らしい美しさも織り込んだものを、現代の作家さんが復活させています。

ほかにも「南部鉄器」や「仙台こけし」といった伝統工芸の職人さんを、青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島の東北六県から2人ずつ12人、映像で紹介しています。

プロジェクトの話の前に、少し自分のことをお話ししますと、ぼくの実家はもともと、八戸で肥料用の鰯などを扱う商家で、祖母の代に本屋と文房具屋になりました。大学では経営学を学んだのですが、じつはその最初の一コマ目の授業で教授に「これからつぶれる業種は本屋と文房具屋だ」といわれてしまった。その後の4年間は、このままじゃだめなんだろうなと漠然と思いながら過ごしました。

卒業後は銀座にある文房具専門店の伊東屋で5年ほど修業し、今から7年前に地元にもどりました。先の教授の言葉もあり、これからどうしていこうと考えていたときに、八戸ポータルミュージアムという公共施設が計画され、ミュージアムショップのコンペの話がもちあがりました。

その施設は市民ギャラリーであると同時に、地域の工芸品や産業を知ることができ、地元の祭の山車を収納する場所にもなると聞いていました。きっと東京からおしゃれな雑貨屋でも入ってきてしまうのだろうと思う反面、本当にそれでいいのだろうかとも感じていました。自分にもなにかできることがあるのではないか、そう考えてコンペに応募し、カネイリミュージアムショップの1店舗目がオープンしたのです。

青森県のものづくりとアート、デザインで地域の誇りになるような空間づくりを目指し、工芸品を集めたのですけど、ただそれを並べるというのでは、百貨店や骨董屋さんか駅前のお土産屋さんと同じです。ふつうに見て、「これ欲しい!」という魅力があるとはいえません。

そこでアートやデザインプロダクトと工芸品を同じ棚に並べることにしました。家に持って帰ってはじめて「あ、これって地元のものだったんだ」と気づくぐらいの感覚でいいんです。工芸品そのものにアートやデザイン要素をとり入れ、工芸品とアート、両方の価値を上げることも考えました。

ところが、オープンの1か月後に東日本大震災がおこり、ここは避難所になりました。幸い八戸は工場地帯であまり人が住んでないため、復旧するのも早かった。東北の復興の先頭を走っていこうという空気のなかで、ぼくらは、自分たちに何かできることを考え続けました。

震災から半年後、仙台のメディアテークという公共施設のショップが撤退することになり、カネイリミュージアムショップがそこに入ることになりました。地元・八戸や青森から「東北」にテーマが広がり、プロジェクトが進みはじめました。

ものづくりのプロデュース

金入

ショップに置くのは、東京や沖縄の雑貨屋に置いてあっても魅力的に感じられるもの。普遍的な価値のある、「郷土のスタンダード」とでもいえるものです。
「君たちは東北にこだわっているけど、それにとどまらないこだわりをお店から感じます」といわれたことがあります。まさにそれは自分たちのテーマで、やりたいことだったんですね。

それは、単なるユニークさや新しさを追求するのではなく、地域に共有されている価値を、なにかと組み合わせたり場をつくることで提供していくことなのかなと感じています。

八戸には八幡馬という伝統的なおもちゃがあります。北欧の馬の置物が、幸せをよぶといってOLさんたちのあいだで話題になっていると聞き、それなら地元の馬でもいいよねと、リビングに合うような新しいデザインの八幡馬を売り出しました。

八戸の八戸焼と弘前の津軽塗のコラボレーションも手がけました。八戸と弘前というのは山を隔てて昔から疎遠な地域で、商圏がまったく異なっていたんですね。でも10年くらい前に一度、八戸焼と津軽塗の職人さんが一緒にものづくりしようとしたことがあったのだそうです。その話をきっかけに、あらためて陶器に漆を施す陶胎漆器のものづくりがはじまりました。

宮城県には常磐型という型染めの型が100枚以上残っていました。仙台は織物が盛んではなかったので、昔から着物のカスリ模様などを型で再現して楽しんでいたとか。その型をトレースしたものを、仙台在住のデザイナーさんにアレンジしてもらって、新しい手ぬぐいのシリーズをつくっています。

ほかにもいろいろあるのですが、最近つくったのが南部鉄器のフラワーポットです。鉄器は重いので、広がりのある花材や高さのある花材を挿しても倒れません。

こうしたことを進めているうちに、「東北の工芸品を東京で売ってくれ」といった声がかかるようになってきました。

「東北の魅力」の奥にあるもの

金入

「東北の魅力ってなんですか?」という問いに、ぼくは最初、うまく答えられませんでした。それぞれ魅力があって、各県ごとに文化も違うし、ひとことでいえないと思っていたんです。でも、東北を巡りながら、なにか共通のメッセージがあるはずと感じていました。

そこで2年前に立ち上げたのが、学びながら発信していく「東北STANDARD」です。あらためて職人さんたちを取材させてもらい、映像をつくり、ものづくりや販売を進めるようになりました。
そのなかから東北にある「スタンダード」、それは「変わらなさ」という一つの魅力ではないかということが見えてきました。

こうして冒頭にご紹介したような12の映像作品をつくって発表しましたが、いまは、もっとその奥にあるものを勉強したいと思っています。

たとえば、南部鉄器のある職人さんは、何百年続く鉄器のなかで、「自分の鉄器のこの表面の表現(テクスチャー)は自分だけのものだ」と語っていました。いままで何千人という職人がかかわってきた歴史のなかで、一人ひとりが鉄に対する思いを持ちつづけている。その変わらなさが人を惹きつけるんです。

ある方から「よりよく生きることはデザインに、なぜ生きるかを考えることはアートにつながる」という言葉をききました。

今生きている自分たちが、よりよく生きるためのヒントが、東北にはたくさんあります。そういった、工芸の奥にあるものをもっともっと伝えていきたいと思っています。

東京からのアプローチ

唐津

はじめまして、東北STANDARDのプランニングやプロデュースをしている唐津宏治です。金入さんとは立ち上げからずっと一緒にやってきまして、東京から東北に通いながら、伝統工芸職人の取材をしつつ、東北の魅力を発信してきました。

ぼくは東京生まれ東京育ちで、デザインや映像を制作する会社で働いています。広告やテレビ番組のタイトルバックをつくる会社なのですけど、ここ3、4年は行政の仕事が増えてきています。東京に住んでいる人たちが、地方やローカルというものに対して、どうアプローチするべきか、どういっしょに仕事をしていくかを、自分なりに考えながら仕事をしてきました。

先日、徳島県をプロモーションする「vs東京」という映像をつくりました。「徳島が東京を変える」というので、ちょっと話題になった映像です。「徳島が東京に勝てるわけないよ」なんていわれたんですが、それって、おしゃれさとか、洗練されているとか、そういうのを良しとする基準においてですよね。でも、地方やローカルの魅力を、東京と同じような尺度ではかっても意味がない。自分たちの言葉で、自分たちの魅力を、東京とは違うかたちで発信していくことが重要と考えています。

ぼくはいま36歳で、2002年に社会人になりました。日韓ワールドカップをやった年です。スポーツマーケティングの会社にいたので、このワールドカップにも関わっていました。その経験から、2016年のオリンピック東京招致の仕事にも携わりました。1年も2年もかけて、東京の良さとか魅力、東京が世界のいろいろな都市に対してどこが優れているかというストロングポイントを海外のコンサルタントと一緒に考え続けたんです。

その後は2022年のFIFAワールドカップ招致にも携わり、こんどは日本のよさを世界中にプレゼンテーションしました。結局、どちらとも負けてしまったんですけど、この2つの経験を通じて、東京や日本について学び、考えることができました。

海外のコンサルタントにいわせると、日本は、すごく「ヘクティック」なんだそうです。hecticって、多忙をきわめたとか、てんてこまいとかいった意味。「とにかく日本人はよく働く、スピードが速い、でもほんとにそれで楽しいの?」という、ちょっとネガティブな意味も含まれています。

じっさい東京は、人もお金もすごく集まってどんどん進化して、ヘクティックです。それは海外の人から見ると、ハイテクで未来的なおもしろさでもある。その一方で、東京にはたくさんの自然や伝統もある。ぼくたちにはピンとこないけど、代々木公園の緑がすごいとか、浜離宮がいいとか。そのうえ人もあったかくて、どこでも安心しておもてなしを受けることができる、という。でも、ぼく自身は「ほんとかな、人は冷たいし、自然なんかぜんぜん感じないし、海外の人たちの評価って的を射てるのかな」と疑問でした。

その疑問を抱えたまま会社を辞めて、フリーの仕事で、世界一周をして、そのことをたしかめる機会を得ました。世界中のヒルトンホテルに泊まって取材し、それぞれのホテルを紹介するというものです。

アジアに行くと、ソウルや上海、香港などの広報マネジャーは、「うちのヒルトンはエルメスにアクセスがしやすいよ」とか、「プラダやティファニーが近いよ」ということを広報してくれという。ところがヨーロッパや南米だと、近所の教会で今タイルを補修しているから見てみたらおもしろいよとか、ここのワインは、近くにあるどこどこのワイナリーでつくられたワインだからおいしいよとか、すごくローカルなその土地に根づいた魅力をおしえてくれるんです。

魅力的に見えるのはどちらでしょうか? ぼくら自身がいいと思ってプレゼンテーションしたり、自慢したいと思ってきたことって、ほんとなのかな。東京に、置き換えのきかない価値ってあるのかな。この仕事は、そんなことを考えるきっかけになりました。

たぶんみなさんもお気づきでしょうが、今、発展している世界の都市って、高いビルや目を引くタワーがあって、どこも東京と似たり寄ったりです。

日本の中では、東京はとんがっててかっこいい、地方はどこも同じでダサいみたいな構図になっていると思うんですけど、今はそれが逆になっている気がします。東京や大阪が、ほかの世界的な都市と同じになってきていて、地方にこそ均質化されていない価値が残っているのではないでしょうか。

のどかさとか、田園風景ではなく、その土地だけが持つ価値をローカルととらえ直したときに、ちがった見方ができるはず。その地方にしか残されていないものを掘り起こして、並べてみようぜ!というのが、東北STANDARDであり、「vs東京」であったりするわけです。

いっぱいあっていい「スタンダード」

唐津

「グローバルスタンダード」という言葉がありますが、実際に世界中をまわってみると、グローバルスタンダードなものって、トイレの標識ぐらいしかなかったんですね。それで逆説的な意味を込めて、あえて「東北STANDARD」という名前を打ち出しました。スタンダードって、「全員の共通概念」みたいに思われているかもしれないけど、むしろ「スタンダードがいっぱいあってもいい」というのが、僕が伝えていきたいことです。

ぼくら東京の人間は、それをちゃんと見つけ出して伝えて、自分の血と肉にする必要があるし、地方の人たちは、自分たちのスタンダードをもっと大事にして、もう一度学びなおしたほうがいい。

どういうことかというと、現代社会において新しいスタンダードが必要になってきている。それが生まれようとしている今だからこそ、このシブヤ大学の授業に100名以上の応募があって、多くの人が地方について興味をもっているのでしょう。

スタンダードという言葉は、「誰かと同じであること」という意味ではない。「時代に沿った」あるいは「時代に求められた」、「生活にきちんと寄り沿った」、そして「手の届くもの」という意味だと思うんです。そのような新しいスタンダードが生み出されるのは地方からであって、ヘクティックな東京からはなかなか生まれづらいのではないでしょうか。

これまで東北STANDARDは伝統工芸職人と工芸を扱ってきました。これからセカンドシーズンとして、いくつか新しい仕掛けを考えています。東北にしかないスタンダードで、東京や世界にはないものを探していくんです。

そのひとつが民間信仰の巫女である「イタコ」です。

先日取材したのは、ルーツがはっきりしているイタコとしては最後の一人といわれている人。イタコってなにかというと、小さなコミュニティを運用するための相談役だったり、困ったことがあったときに訪ねていってものを探してくれたりとか、あとは祭事のときに、神さまと人々をつなぐ役目です。

隣に住んでいる人の顔もわからない今、コミュニティがオンラインの世界に求められたり、わけがわからないことになっています。東北にうけつがれてきたイタコのように、コミュニティのハブになる存在には、僕たちがこれから生きてくうえで、学ぶことがたくさんあるんじゃないかと思うんです。

さいごに

金入

ぼくらのプロジェクトは、伝統工芸からスタートしたんですけど、それだけではまだ魅力をわかりきっていない自分がいます。その奥にある思想づくり、神さまのこととか、海のこととか、山のこととか、伝統芸能のことなんかも、東北STANDARDのサイトから深めていきたいと思っています。

今日は、青森からきた自分なりの思いと、東京からサポートしてくれている唐津さんの思いを話させていただきました。ひとつの例として参考にして、ヒントにしてください。ありがとうございました。

講 師

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金入 健雄

東北STANDARD代表

1980年青森県八戸市生まれ。株式会社金入代表取締役社長、東北STANDARD株式会社代表。せんだいメディアテーク、 八戸ポータルミュージアム「はっち」にてカネイリミュージアムショップを運営。東北の工芸品や文房具、書籍などのセレクトを通じて東北の魅力を発信し続けている。

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唐津 宏治

東北STANDARD副代表
ドローイングアンドマニュアル プランナー

1978年東京都品川区生まれ。プランナー。2016東京五輪、2022FIFAワールド杯の招致活動に携わり、二敗。傷を癒すために退社、世界一周。ドローイングアンドマニュアル(株)に入社後、「東北STANDARD」の企画、徳島県PRコンセプト「vs東京」の開発など、地方ブランディング活動を前のめりに行う。