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2015年6月17日(水) Think College Vol.32

企業の中で応援やサポートを得る 〜社会貢献活動の新しい進め方〜

講師:深堀昂 / ANA BLUE WINGプログラムリーダー

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
6月のテーマは「企業の中から社会をかえていく」こと。

仕事の中でいいアイデアが浮かんでも、
「会社ではやりたいことがやれない!」
そんな窮屈さを感じる人も多いのではないでしょうか。

大企業の内側から、時間をかけて、その殻をやぶっていった人がいます。
その原動力は、「大好きな仕事で世の中をよくしたい」というまっすぐな思いでした。
人との出会い、アドバイスの行かし方、チャンスをつかむタイミング…。
そのお話のなかには、私たちにもなにかを実現できるヒントが隠されていそうです。

チェンジメーカー、ジョン・ウッドとの出会い

深堀

私は大の飛行機好きで、全日本空輸(ANA)に入社して8年目。もともとは運航技術という分野が専門で、パイロットの通常時・緊急時の操作手順をつくったり、ボーイング社等との新機種導入に関わったり、ルフトハンザと共同で訓練開発を行ったりと、さまざまな業務に携わっていました。

それが今は宣伝部です。ウェアラブルカメラでビジネスクラスを体験できる「YOUR ANA」というプログラムをご存じでしょうか? 去年の4月に部署を異動したあと、私がはじめて企画したものです。

さて、今日お話しするのは、「BLUE WING」という、私自身も個人的に非常に思い入れのあるプログラムです。

きっかけは、ある海外のリーダーとの出会いでした。入社2年目のころ、私は、六本木ヒルズでたまたまポスターを見て、グローバルアジェンダセミナーGlobal Agenda Seminarというものに参加しました。さまざまな業界から人を集めて、1年間かけ、社会問題を解決する能力をみがくというセミナーです。

そのゲスト・スピーカーの一人がジョン・ウッド。『マイクロソフトでは出会えなかった天職』という著書をご存じのかたもいらっしゃると思います。ケロッグ経営大学院でMBAを取得し、マイクロソフトのアジアエリア幹部として腕をふるっていた彼は、たまたまネパールで立ち寄った図書館で、そこに本が数冊しかないことに衝撃を受けます。自分が今までやってきたマーケティングのノウハウやビジネススキルを用いれば、この問題はかならず解決できる。ジョンは、マイクロソフトをやめ、Room to Readという教育NGOを立ち上げました。

明確なビジョンと情熱的な語り。私は彼のカリスマ性に引き込まれました。このあとまた別の国に飛ぶと聞き、年間の航空移動はどのくらいかたずねたところ、なんと365日中300日も移動しているという。しかもその費用は寄付金からほとんどをまかなっており、普通に航空運賃を支払っているというのです。その額は年間およそ7600万円。それだけのお金があれば、スリランカに小学校と大きい幼稚園をつくることができます。

私は思いついたことをジョンにいいました。
「あなたのストーリーを私たちANAのネットワークにのせて、世界中の人たちに広げてみませんか。その代わりにあなたも積極的にこのコラボレーションをPRしてください」。
するとジョンは、「おもしろいね、それ。バーター取引だね」とのってきてくれたんです。

よくある寄付や慈善事業ではありません。私たちは海外における認知度を高めたい。そこで、人を惹きつける彼のストーリーを、私たちの商品であるフライト、すなわち彼が必要としている移動手段と等価で提供し合おうというわけです。ビジネス取引を非営利の世界に持ち込んだ試み、それがBLUE WINGプログラムのアイデアでした。

失敗に終わった最初のチャレンジ

深堀

ジョン・ウッドに出会ったとき、そばで話をきいていたグローバルアジェンダセミナーのメインファシリテーターで一橋大学名誉教授の石倉洋子さんが、当初から強力に後押ししてくれました。なにしろ、入社2年目の私には、思いついたことを、どう進めればよいかさっぱりわかりません。「まずは、会社の外から話を投げてみれば」ということで石倉さんのサポートを受け、自分の会社の会長と社長に話が伝わりました。

すると2日後くらいに、CSR(企業の社会貢献)担当の主席部員の一人が、「深堀というのはどこにいる?」と私の部署に訪ねてきたのです。その主席から、「内容はあまり面白くない」といわれましたが、なんとかモデルを詰める猶予をもらいました。

一方、参加していたセミナーでの反応は上々でした。ジョン・ウッドに会った4日後には、このアイデアをほかのNGOに置き換えて提案し、反応をみました。結果、Human Rights WatchWWFUNHCRなど、グローバルに活躍している有名な組織でも、航空移動がかなり大きな負担になっていることがわかりました。ニーズは豊富にあるわけです。私の資料のタイアップ先候補には、さまざまなNGOの名前がずらりと並びました。

半年ほどたったその年の秋、CSRに連絡をとってみると、最初の主席は担当を外れていました。こういうことはみなさんもきっと経験されていると思いますが、新しい担当に再度、話をするところから始めなければなりませんでした。

すると今度は、「おもしろいアイデアだけど、残念ながら無理」。もちろん、それでは納得できません。食い下がって、さらに上の役員にもプレゼンテーションするチャンスをもらえないか交渉したのですが、結局「ダメなものはダメ。NoじゃないけどYesとはいえない」といわれて終了になりました。

「あなた何回失敗したの?」

深堀

がっかりしながら、お世話になった石倉さんに報告を入れると「あなた何回失敗したの?」と笑われてしまいました。「新しいことは9回挑戦して11回目に成功するものよ」。

じつはこの6か月間、社内でもいろいろな可能性をさぐってはいました。社内セミナーで知り合った営業のマネジャーに、「世の中を変えるビジネスモデルを思いつきました。30分ください」と、まるで怪しいスパムメールのようなものを送ったこともあります。それでも会ってくれたその人が、同期の広報やマーケティング部、営業系の仲間を紹介してくれました。しかも全員、時間をつくって、私のアイデアを聞いてくれたんです。そこでは、CSRの担当者とは違ったレスポンスが返ってきました。

「海外でも宣伝にはかなり費やしているのに、ぜんぜん認知度があがらない。むしろ、こういうストーリーを打ち出したほうが注目されるのかも。それほどお金がかかると思えないし」

そこで今度は「これは社会貢献というより長期的なブランディングだ」という位置づけで、社内に向けてピッチをしました。するとブランディングのトップから、思いがけなく声がかかりました。
「話は聞いた。おもしろいと思う」

次はどうするか、です。社内でアイデアを聞いてくれたマーケティング部の仲間の力を借り、各マーケティングセクション部門の部長副部長を集めた非公式な検討委員会が立ち上げられました。Blue Wingのアイデアが生まれて2年目のことです。

ところが、各部署の部長クラスはみな「おもしろい、やってみようよ」というのに、副部長は全員が「社会貢献なのにリターン求めるのってどうなの」、「たくさんあるNGOから、どうやって選ぶの」と反論ばかりで話が進みません。

プロジェクトが頓挫しかかっていた2011年3月11日、会議の最中に東日本大震災が発生し、それどころではなくなってしまいました。

確信を胸に再度チャレンジ

深堀

海外支援のPRを考えていたのに、日本が支援を必要とする側になってしまった。

2週間ほど悩んだ末、東北に実際に行き情報を集め、BLUE WINGを、東北復興プログラムに書きかえました。ところが、検討委員会にメールを送ったところ「これはBLUE WINGじゃないね」とにべもない返答。

かなり落ち込んだ時期ではありましたが、そのころ社外のほうでは、1年間のグローバルアジェンダセミナーが終わりに近づき、50名ほどの参加者のなかから、私のBLUE WINGモデルがグランプリに選ばれました。そのおかげで翌年の世界経済フォーラム・東アジアのサミットに出席することができたのです。フォーラムのプロフィールサイトにはBLUE WINGのモデルを登録することができます。すると、それを見た人たちがコンタクトしてきてくれました。世界のスペシャリストたちが真剣に話にのってくれるのを知って、このアイデアはぜったいいけると確信しました。

このフォーラムを通じて、アショカという社会起業家を発掘・支援する組織にもつながりができました。震災をきっかけに、日本にベースを置いたアショカ・ジャパンが創設されていました。その代表理事である渡邊奈々さんを紹介してもらい、BLUE WINGの話をしたところ、タイアップの話が現実味をおびてきました。私は、資料に並んでいたたくさんのNGOの名前をぜんぶ消して、アショカ・ジャパンだけにしぼり、モデルを練り直しました。

あたらしい資料をもって、非公式検討員会を立ち上げたリーダーに30分間のプレゼンテーションをしました。すると営業部門でのプレゼンテーションのチャンスが与えられました。忘れもしない2012年の1月10日のことです。1時間のプレゼンテーションの結果、営業部門の部長、副部長が「わかった」といってくれた。そこまでに2年あまり、その後も道のりはまだまだ長かったのですが、とりあえずゴーサインが出たのです。

社内公募でチームを結成!

深堀

ところが、また恒例の役員人事異動です。せっかくOKといってくれた二人が異動となり、一人はニューヨーク、一人は企画のほうに行ってしまいました。代わりに新しいマーケティングのトップが5月にロンドンから帰ってくるというので、「じゃあ深堀くん、その時期になったらもう1回プレゼンテーションしてくれ」。

このときはすかさず「社内公募をさせてください」と願い出ました。ここから先にプロジェクトを進めるためには、一人ではぜったい無理だと思ったからです。

ANAグループのなかからチームを公募する「バーチャルハリウッド」という制度を利用しました。応募者数は過去最多。福岡から新潟まで全国各地をまわって、一人一人面接をして27名のメンバーを集めました。客室乗務員、パイロット、営業、セールス、貨物、人事と多彩な顔ぶれです。会議は業務前の朝7時から、土日も使ってモデルを詰め、役員にプレゼンテーションをし、2年あまりかけて少しずつ準備を整えました。

そして、ようやくこの半年間は具体的なブランディングのテストをするところまでこぎつけました。

たとえば、広告代理店が入り、かなりのお金をかけてやっている企業のブランディングメッセージと、1000円くらいでつくったバナー等を比較し、どちらが効率的にクリックされるかを14ヵ国で調べました。すると、とくに先進国においては「世の中をより良くするために」とうたったBLUE WINGのバナーのほうが、圧倒的に多くクリックされたのです。

世界中にネットワークがあって、広いシートで最高級のおもてなし……どの航空会社でも同じように高品質なサービスを提供するなか、プラスアルファとして「世の中がよくなる」という発信は一つの差別化にできる可能性がでてきました。

BLUE WINGのプロモーションサイトですが、これもできるだけお金をかけないように制作しています。こちらから毎回取材班を派遣するのではなく、現地のカメラマンにチェンジメーカーのところに行ってもらい、撮影したデータを送ってもらうなど様々な工夫をしています。

アショカが支援する3000人のチェンジメーカーのなかから、私たちのマーケティングしたいエリアで選び抜いた人にコンタクトし、「航空移動で世の中をいっしょにかえませんか」と声をかけました。

たとえば、スタンフォード大学で医学を学んでいたジョシュ・ネスビットは、携帯電話のテキストメッセージを活用して、医療インフラの整っていない遠隔地の医療活動を進めています。「ビッグイシュー」のジャーナリストとして活躍していたメル・ヤングは、ホームレスをサッカーで救うワールドカップを開催しています。最初に出会ったジョン・ウッドの教育NGOをはじめ、どれもビジネスモデルとしてかなりユニークなものばかりです。

具体的には、このグローバルコンテンツをフェイスブックやツイッターなどでシェアすると、15マイルが、好きなチェンジメーカーに付与されます。BLUE WINGサイトを経由してANAの航空券を購入すると1%が提供されたり、また、ためたマイレージの寄付をすることもできます。

とくに社会貢献が好きな人に限らず、新しいことをしたい人や、ビジネスで世の中をよりよくしたいという人たちを含めて、チェンジメーカーのストーリーを通じて前向きに頑張ってみようかなと思えるプログラムを提供するのが狙いです。

私にとっての「飛行機」は身近で、ライト兄弟の時代とかわらず、人類の挑戦や夢を象徴している乗りものです。ところが学生時代にボランティアをしていた時に難民の方と話をしていて気が付いたのは、世界には飛行機を見たこともない人々が大勢いるということです。。そのギャップを埋めたい、と心から思っています。

ANAもまた、最初はヘリコプター2機からはじまった航空会社です。大企業になっても、世界中の人に夢と感動を届けたいというスピリットはかわりません。だからこそ、チェンジメーカーのような人たちとコラボレーションすることで、世の中を変えていけると信じています。

参加者からの質問

ーー

深堀さんが各界のキーパーソンとつながっていられる理由やコツはどんなところにあるのですか。

深堀

困っているとき、それでもこれがやりたいと思いを伝えると、まったく違う会社のまったく違う人がサポートしてくれることばかりでした。やりたいことを素直に人に話すことが重要なのだと思います。

ーー

最初は業務時間外に進めていたそうですが、今は、業務時間内にやっているのですか。また、このプログラムがかたちになったあとは、深堀さんはまた別の仕事をされるのでしょうか。

深堀

今、私の担当業務はANAの海外プロモーションです。BLUE WINGもその一部で、私が主担当として動かしています。私以外の27名の有志メンバーは定期的に集まったり、クローズのフェイスブックなどで情報交換をしたりしながら、会社業務をこえて「みんなで企業を日本をそして世界を変えていこう!」という意気込みでやっています。

講 師

akira-fukabori
深堀 昂

ANA BLUE WINGプロジェクトリーダー

全日本空輸株式会社BLUEWINGプログラムリーダー。全日本空輸株式会社マーケティング室マーケットコミュニケーション部宣伝チーム。2008年東海大学工学部航空宇宙学科卒業。同年全日本空輸に入社。パイロットの操作手順などを作る運航系の業務のかたわら、営利と非営利の新しいビジネスパートナーシップを創出。Global Agenda Seminarの受講をきっかけに「BLUE WINGモデル」を考案し、Global Agenda Seminar 2010 Grand Prize受賞。現在は、ANAの海外プロモーションを担当。ウェアラブルカメラで撮影した国際線ビジネスクラス体験・撮影プロモーション「YOUR ANA」などを企画・実行。