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2015年11月18日(水) Think College Vol.37

まずは、ゆるーくやってみよう。
~地域に飛び出す、公務員っぽくない公務員の挑戦~

講師:山田崇 / 塩尻市役所企画政策部企画課シティプロモーション係 係長・nanoda 代表・信州移住計画 代表

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
11月のテーマは「なにかをはじめてみる」こと。

「準備ができたら」「仲間ができたら」「お金がたまったら」はじめよう、と思っていることって、ありませんか。それって、そのままになってしまうかも。
肩の力を抜いて、まずはやってみる。どうやら、突破口はそのへんにありそうです。

シャッターを開けてみよう。

山田

わー拍手、めっちゃきもちいいっすね。山田崇です。「元ナンパ師」でグーグル検索してください。トップです。「街頭コミュニケーション術」と言いかえてくれる人もいますが、つまりナンパですね。でも今日ここに呼ばれている理由は、「空き屋を借りた」ことかなと思っています。

40歳バツイチ子どもなしのわたしは、18年間、長野県塩尻市で市役所の仕事しかやったことがありません。時間外では「nanoda代表」とか「信州移住計画代表」みたいなことをいろいろやっています。

みなさんの大切な時間をいただいているので、最後にいいたいことを先に言っておきますね。今日ここに来たみなさんには、なにかしら行動していただきたい。

「やりたい時に、やる。見たい時に、見る。『できるようになってから』では、すでに遅い」。これはわたしが2年前に出会った『SCHOOL OF DESIGN(スクール オブ デザイン)』(水野 学ほか編、誠文堂新光社)という本に書いてある言葉で、今でも忘れないようにしています。準備ができていない、仲間がいない、お金がないとかいっていると、時代の流れがすごく速くなってきていますので、間に合いません。まずは小さくスタートすることからはじめてみてください。

市の職員として、地域が元気になるために、わたし自身がちょっとはじめてみたのが、これ。「シャッターを開けてみよう」ということです。

塩尻市には、中山道に69あるうちの5つの宿場があります。奈良井宿で2月3日にアイスキャンドル祭りがあります。1800メートルの高原があって、富士山が望めます。「ZEKKEIJapan(絶景ジャパン)」というサイトにも出ていて、120万イイネ!いただいています。

こんな塩尻市で、とある商店街の空き屋を3年半前から借りて、シャッターを開けてみました。家賃は4軒で2万8000円。なぜそんな金額で借りられるかというと、地方に人がいないから。たしかに土日、ほとんど人は歩いていません。130店舗の商店街で23.1%という空き店舗率は県平均の3倍。でも大丈夫です。やりようによっては人がくる。2014年10月にやったイベントには、こんなに人が集まりました

山田

なにをしたかというと、剛力彩芽を呼んだんです。今日も商店街の元理事長の方と東京でランチミーティングがありました。商店街に空き屋を借りたことによって、どんなことができるかを考えるために参画していただいています。

自腹を切って見えてくること

山田

最初にやったのは、高校生と地域をテーマにしたアートフェスタ「Shiojiringシオジリング」。いまもその活動は続けています。2012年のプレイベントで30時間トークマラソンというのをやりまして、商店街を借りて、現代美術のアーティストを20組くらい呼んで、30時間ぶっ通しでアート会談をやりました。今も続く「Shiojiri Conversations塩尻カンバセーション」の、それがスタートですね。

「空き家プロジェクトnanoda(なのだ)」のきっかけは、商店街振興活性化を考える市や商工会議所職員の勉強会です。そもそも自分が商売したこともなければ、商店街で暮らしたこともないのに、本当に課題がつかめるのか。それで自腹を切って空き店舗を借りてみたんです。

そこには会議室とか、イベントスペースとかいった属性は持たせていません。ひとつコンセプトがあるとすれば、そこでなにかしたいという人が「トークなのだ」「朝食なのだ」「ワインなのだ」と、やりたいことをとにかく「気軽にスタートできる場」です。

結果、1軒目は人が住み、2軒目はアトリエ、3軒目は設計事務所になりました。2012年4月からの3年間で、商店街には若者が5人移住してきました。現在は10か月間で126人の若者たちが、お風呂がない2階建ての空き家に短期滞在中。フィールドワークをしながら卒業論文をまとめる大学生もいます。

気がつくとnanodaのメンバー8人は、わたし以外全員Iターン。ようは、地域にもともとあるコミュニティとは別のかたちのコミュニティを若い人たちが求めていたのかもしれない。nanodaで起こっていることを顕在化してみようと、京都への移住をサポートするプロジェクト「京都移住計画」に協力いただいて「信州移住計画」を立ち上げました。

これはわたしが、2015年3月まで塩尻商工会議所にいて、わたしが新規で手がけた移住定住の施策です。若者を応援するためにその機会をつくろう。たんに地域やそこにすむ人がいいとか、空気がきれいだったり景色がいいというのではじつは若者たちは住めない。そこに仕事がないとなかなか移住には踏み切れません。

「好きな町で、自分らしく暮らす」プロジェクトの数々

山田

塩尻市役所に勤めるわたしが、こうやってどんどん外に出てこれるのは、じつは塩尻市は全国で二番目に早く、2015年の3月に地方版総合戦略を策定したからでもあります。わたしは企画課に所属していて、課のメンバーと一緒に地方創生の仕事をさせていただいています。

塩尻市は人口66700人。5500人が働くセイコーエプソンの研究開発拠点がありますので、わりと若い人たちが多いまちです。ところが896の自治体が消滅するといわれる2040年の塩尻市の人口ピラミッドを見ると、女性で一番多いのは65歳から70歳、次に多いのは90歳以上。20歳から39歳の女性が少なくなるということで、消滅の可能性がささやかれています。こうならないためにどうしていけばいいか、施策を考えるのが仕事です。

2015年4月1日現在、日本には1718の自治体があります。ほぼ全国の自治体で移住定住の施策をやっています。人口は2008年から日本は減りはじめている。塩尻に人がふえたらどこかで一人減るんですよ。その奪い合いは浅ましいと思う。デュアルでもいいし、東京にいながら塩尻のファンになってくれる人、そんな方がいてもいいと思っています。

同時にわたしは信州大学の共同研究員として、大学生と一緒に「政策誘導でなく、信州大学に進学した大学生が、どうやってそのまちを好きになって定住するか」という研究を2年間がかりでやっています。

それから、塩尻にどう愛着をもつかという「シビックプライド」。プロジェクトエディターの紫牟田伸子さんやシブヤ大学学長の左京泰明さんと一緒に、これからのシティプロモーションを考えるため、ほぼ毎週打ち合わせしています。

3年前にシブヤ大学とともにはじめたツーリズム企画「人に会いに行く旅」は、今年、国(中小企業庁))の事業になりました。もっとコミットしたい人には、地域イノベーター留学。これはNPO法人ETICの企画なんですが、4人一組で東京の社会人がチームを組んで、地域の課題を解決するという4か月のプログラムです。これが4年目に入っています。大学生向けに、6か月の長期インターンと6週間の短期インターンシップもあります。

インターンシップでは、わたしが初めてコーディネートした信州大学の三浦希枝さんが、地域若者チャレンジ大賞2015の北信越大会代表となり、全国大会では250の事例のなかから3位をとってくださいました。地元の酒井産業というメーカーさんと一緒に国産材の木のおもちゃを全国展開するというプログラムです。これを受けて、来年(2016年)の3月には木育サミットが塩尻で開催されます。

塩尻に、国産の木のおもちゃで日本一の企業があることを、地元の人たちは知らないんです。地元の中小企業と学生を、もっというとその社長と学生をつなげることでファンをふやして、ここで働いてみようという目で見ていただくひとつのきっかけづくりです。

信州移住計画のキャッチコピーに、「好きな町で、自分らしく暮らす」というのがあります。塩尻というのはもともと中山道が通って、東京、名古屋、京都からも近い交通の要所。わたしは、100人移住の相談がきたら、99人は交通整理してあげるつもりです。長野に面白い人いるよ、松本市に「Knower(s)ノウアーズ」、上田市に「HanaLab.ハナラボ」というコワーキングスペースがあるよ。下諏訪に「マスヤゲストハウス」があるよ。こんなふうに、その人に合っているところを紹介していきたいと思っています。

塩尻移住計画のプロジェクトは、県の補助金をとってきてスタートしました。そのプレゼンの時、審査員から「山田さん、それ行政の事業となにが違うの?」といわれたんですよ。ズバッといってやりましたね。「わたしなら、ひいきができます!」

しっかりと一人の人と向き合って、話をして「あなたをここに」と紹介ができる。信州だけじゃなくて、京都移住計画、宮崎てげてげ移住計画、新潟移住計画、福岡移住計画といった仲間にも、県を超えて紹介してしまってもいいくらいに思っています。そうやって若者たちが元気に挑戦できる、自分が自分らしく暮らせるまちに住めるようにして、日本全体を元気にするということを、時間外で、自分のお金で、できる範囲でやっているんです。

行政と現場を行き来する

山田

なぜ、そうなったかをお話ししましょう。

2000年の4月に施行された「地方分権一括法」によって、地方自治法第一条、第二項に目的条項が追加されました。地方自治体は「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」。なんのためにか? 「住民の福祉の増進を図る」ために、です。

それぞれの地方の課題、目の前にいる人たちの課題は今、複雑化、多様化してきています。地域の住民に一番近い、基礎自治体の職員がしっかりとそのニーズや課題を見つけて、ひもをほどいていくということをしなければいけなくなってきた。

明治大学政治経済学部にいらっしゃる牛山久二彦先生は長野県の諏訪出身です。わたしは先生に教えていただいて、「地方自治体、なんかやり甲斐あるな」と思いました。その牛山先生から「山ちゃん、地方自治体でなんでもできるようになってよ」といわれたんです。

塩尻市長の年間の報酬と商工会議所会頭の年会費をお見せしましょう。

商工会議所、会頭、副会頭、議員、90人います。1950の会員さんがいます。みなさん無報酬で、本来自分の価値ある仕事を横に置いて、車で30分かけて商工会議所に来て、「山田くん、こんなことしたらどうだ」という人たちなんですよ。かたや市長は1300万円の給料をもらって、「町はこうあるべきだ」といっている。最初、まったく知らなかったんですよ。わたしだけだったんです。商工会議所に行って、お給料をもらって、税金で仕事をしているのは。

スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』のなかに、すごく好きな言葉があります。「本当の天才は相反する二つの課題を同時に解決する」。社会起業家論の田坂広志さんも同じようなことをおっしゃっています。「矛盾とは、世界の発展の原動力である」。

営利、非営利、マクロとミクロ、どちらか一方を見るのではなくて、振り子のように、両方を意識しながら、発展的に考えていく。昼間は市役所でマクロな視点をもって、公共の福祉のために公平、公正にやらなきゃいけない。でも、これだけじゃたとえば空き家を借りている鈴木さんが、なにを困っているのかはつかめない。現場に身を置いてみて、自分がその解決をしてみる。そして、それを仕組み化するのが行政の職員の役割。この二つをいつも忘れないように、うまくバランスをとってやろうとしています。

メンターに恵まれて

山田

「計画的偶発性」ということもいつも意識しています。渋谷はわたしの聖地、19歳のとき初めてナンパした場所です。なにがいいたいかというと、今日この場でシブヤ大学の講師をやりたいから、nanodaをはじめたわけじゃないんですよ。たった1軒の空き家を、まず自分ができる範囲で開けてみようと思ったら、三年半後、こんなことになってます。ようはですね、やってみなきゃわからないんです。

一時期松本に住んでいた児童文学家いしいしんじさんの作品に、『トリツカレ男』(ビリケン出版/新潮文庫)があります。ジュゼッペという男の子はたくさんの趣味を持ってるんですね。なにかにハマるととりつかれたようになる。その趣味の連続が結局、奇跡的に、大好きなペチカという女の子を助けることにつながるんです。

冒頭でお話しした剛力彩芽は、「イベントで演芸ショーをしたい」というひとりの社長の声がきっかけでした。だけど今までの商工会議所では前例がない。お金がない、そんなことできるわけがない。わたし、たまたまエイベックスの担当者と東京で会うことがあったので、その社長の話をしたんですね。そしたらたまたま、その方が剛力彩芽のマネージャーをやっていた。ちょうど3枚目のシングルを出すタイミングだから、剛力彩芽だったらいけるよといってくれたんです。

塩尻の商工会議所の会頭で、塩嶺カントリークラブ、そして別荘地の開発を手がける山田正治さんはいつも言います。

「山田君、やってみなきゃわからないんだよ、これからは。これからは若い山田くんたちの時代。とにかく挑戦しなさい。手柄は全部、山田君のもの、失敗したらわたしのせいにしなさい。わたしはもう75歳、山田君の失敗は全部、墓場にもっていくから」

こんなふうに励まされたら、もうやるしかないっしょ。こんな、いいメンターに恵まれているんです。次はわたしが、そうなる番。そして若者を応援する大人を増やせば、「好きな町で自分らしく暮らす」若者が、生き生きと増えていくんじゃないかなと思ってやっています。

といっても、なにも挑戦したことのない大人に応援されても、若者もぴんと来ないですよね。若者を応援する大人になるために、まずわたしが軽くやってみる。そこに泥水があったら、まず飛び込んでみて、「大丈夫、死なないから! 君らも来なさい」ということをわたしはやってるんじゃないかと思っています、すべてにおいて。

自分だけのオリジナルのキャリアを

山田

わたしは市役所の職員でありながら、青年会議所もnanodaもやっている。「元ナンパ師」という称号。こんな公務員はわたしだけですよ。みなさんも、ぜひ、誰にもまねできないことをやってみて、自分だけのオリジナルのキャリアを積み重ねていただきたいなと思ってます。コンピューターに取って代わられることのない、安い賃金で海外にもっていかれることのない、自分だけのキャリア。ぜひ、考えてみてください。

日本では、縄文時代から2008年まで人口が増え続けた。まちビジネスの木下斉さんがいっていたんですけど、どんなに行政や国が失敗しても、これまでは増え続ける人口と経済成長が飲み込んできてくれた。これからはそうはいかない。もう人口はふえません。「課題先進地」があるだけです。とくに日本は、アジアのなかでも一番早くシュリンクしていくので、世界中から注目されている。だったらまず、なにがおきてるかを知ってみなきゃいけない。

慶応大学の坂倉杏介さんらがやっていた学びの場「三田の家」の最後の2年間に、わたしも1万円を払って通っていました。詳しくは『黒板とワイン―もう一つの学び場「三田の家」』(慶應義塾大学出版会)という本を見てください。三田の家はもうありません。形見分けの黒板をnanodaにもらい受け、今、それがわたしたちのイベントの告知ボードになっています。

地域のコ・クリエーションを図る「コクリ!プロジェクト」で知り合った、ファシリテーター、ボブ・スティルガーが2015年6月に出した本『未来が見えなくなったとき、僕たちはなにを語ればいいのだろう――震災後日本の「コミュニティ再生」への挑戦』(英治出版)も超おすすめです。そのなかで、震災以降、日本の未来は成功の定義が変わったということをボブはいっています。震災以降なにが起こったか。行政を待たない。地域を越えて連携する。当事者として自分でできることから、小さくスタートしてみよう。わたしにとっては、それがnanodaだったんだなと、ボブに会って感じました。

山田崇でした。

講 師

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山田崇

塩尻市役所企画政策部企画課シティプロモーション係 係長
nanoda 代表
信州移住計画 代表

空き家から始まる商店街の賑わい創出プロジェクト nanoda(なのだ)」を 2012 年 4 月より開始。
2014年1月「地域に飛び出す公務員アウォード 2013」大賞を受賞。
TEDトークでの動画「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな「地域活性化」の取組み」が話題に。
信州移住計画」 2015年6月スタート。