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2016年2月18日(木) Think College Vol.40

市民の力で社会を変える!
~コミュニティ・オーガナイジングについて一緒に考えよう~

講師:鎌田華乃子 (NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン 代表理事)

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
2月のテーマは、「社会を変える方法を学ぶ」こと。

プロジェクトやアクティビティを通して、社会を変えていきたい。そう考える人はたくさんいます。
でも、どうやって? そこで立ち止まってしまう人も多いのではないでしょうか。

アメリカには、100年以上前に編み出され、社会を変えた人々が学んだ方法論があります。
そのメソッドの一部をひもときながら、
わたしたち自身がどのようにそれを生かしていけるか、一緒に考えてみませんか。

まずは、わたしの物語を

鎌田

コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)の鎌田華乃子です。
社会を変えるために、いかにして人と一緒に立ち上がり、活動し、課題を解決していくか。その指針になるものが「コミュニティ・オーガナイジング」という方法論でまとめられています。
それについて語る前に、自己紹介もかねてなぜわたしがコミュニティ・オーガナイジングをやっているのかをお話ししましょう。

鎌田

わたしは横浜生まれで、専業主婦の母と会社員の父のあいだに生まれました。1歳のとき、父の転勤で仙台に移り住みました。そこで私が5歳の時、いつも朗らかだった母のようすが変わりました。ごはんもつくれなくて、話しかけても全然こたえてくれない。彼女はうつ病になってしまったんです。住み慣れない土地で家事や育児のストレスがあるなか、足のけがをしたのが大きな原因だったのでしょう。

その後横浜に戻りましたが、小学校のことを話そうとしても「今、何も考えられないから話しかけないで」と母は辛そうで、わたしは悲しい気持ちでした。でも小さな弟がいたのでわたしがしっかりして守らなくちゃと思っていました。そんななか、わたしが唯一子どもらしく自分を解放できる場所が、近所の公園だったんです。そこには木がたくさんあって、そこで木登りをしたり、漫画をよんだり、折り紙を折ったりと楽しんで過ごしていました。

小学校3年生のとき、その公園に工事が入りました。鉄棒ができ、アスレチックができ、すごく立派になったかわりに、わたしが大好きだった木は切られてしまった。子ども心に「なんでおとなたちは、毎日使っているわたしたちの意見も聞かないで、勝手に変えちゃうんだろう」と思いました。小学校5、6年のころ、環境関係の仕事をしている父から日本中、世界中で起こっている開発や森林伐採の話を聞き、将来は環境の仕事につきたいと思うようになりました。

念願かなって26歳のときに環境コンサルタントの仕事についたのですが、だんだんいろんなことがわかってきます。たとえば企業に「環境にもっといいことをしましょう」と提案しても、企業にとっては利益を出すことがやっぱり一番大事。審議会に政策を提言しても、全然通らない状況が続きました。

この仕事をやっていて、ほんとうに社会問題が解決できるのか、すごく悩みました。34歳のとき、海外の調査をしていて、アメリカやヨーロッパではNPOや市民が提案した法律や政策がちゃんと通っていることを知りました。欧米ではNPOに何万人という会員がいて、みんなが参加する代表組織があるからこそ、市民の声が尊重される。

日本でもこういうことをやりたいと思い、2011年からアメリカのハーバード大学ケネディスクールの公共政策大学院に一年間留学しました。そこで出会ったのがコミュニティ・オーガナイジングと、それを教えるマーシャル・ガンツ博士でした。これを日本に広めていくことで、草の根でがんばっている市民の力になれるのではないか。そう考え、2013年に帰国してNPOを立ち上げました。

鎌田

ハーバード大学で指導を受けたマーシャル・ガンツさんは、キング牧師の公民権運動が最高潮に盛り上がったとき大学3年生だったそうです。ご自身も運動に入り、20年にわたりカリフォルニアの大規模農園で働かされている農場労働者の生活改善に取り組みました。その後はお金もコネもないが志のある候補者を政界に送り出す草の根の選挙キャンペーンでアドバイザーをされたあと、ハーバードに戻り、修士課程、博士課程をへて、今、教鞭を執っていらっしゃいます。

ガンツさんは、オバマさんが最初に大統領になった2007-2008年の大統領選のアドバイザーをつとめたことでも知られています。オバマさんが勝つためには、ふだん投票に行かない若者や黒人、ヒスパニックの方たちひとりひとりに声をかけて、投票に行ってもらわなければなりません。そのためにコミュニティ・オーガナイザーを大量に養成し、選挙戦を戦ったということです。

コミュニティ・オーガナイジングの実例

鎌田

ここまで聞いていただくとイメージがわいてきたかもしれませんが、ひとりひとりの小さな力を、ひとつの目的に合わせて使っていくことで、大きな力にしていくのが「コミュニティ・オーガナイジング」です。

アメリカでは20世紀初頭から、つまり100年以上続いている方法論で、もともとは黒人、女性、労働者といったいわゆるマイノリティの人たちが運動を起こして社会や政治を変えるときにもちいられてきました。キング牧師らによる黒人の公民権運動はその代表的なものです。

アメリカにはオーガナイジングを学べるスクールがあり、無数のリーダーがたくさん育っていった結果、公民権運動という大きなものにつながりました。キング牧師も、そこで学んで、運動家として活動をしました。

鎌田

この動きは、アメリカだけではなくて、ヨーロッパや南米、中東、アジアにも広がっています。たとえばインドのガンジーですね。インドで独立運動に結びつくような気運が高まったのもガンジーをはじめ、多くのリーダーが育っていった結果です。日本では公害に立ち向かった人であるとか、生協運動であるとか、最近ではソーシャルワーカーの人たちが、コミュニティで貧困問題に対応することをはじめています。

わたしたちのCOJでは、コミュニティ・オーガナイジングを学ぶワークショップを専門にやっています。去年からはさらにフォローアップ、コーチングという取り組みをはじめ、change.orgという署名サイトとコラボレーションして、ジェンダーに関心のある人たちを20名くらい集め、ジェンダーに関するプロジェクトやキャンペーンを立ち上げてみましょうという実践をしました。

そこで生まれたプロジェクトのなかから、2つご紹介します。ひとつは、「LGBT成人式@埼玉」の開催です。成人式って「男はスーツ、女は着物」のように性別がはっきりしたイベントですよね。これがLGBTの人にはすごくつらい。LGBTでも誰でも来られる、どんな服装をしてもよい成人式として始まったのが「LGBT成人式@埼玉」です。

もうひとつの事例は、わたし自身がワークショップから触発されてはじめた「ちゃぶ台返し女子アクション」という活動です。

鎌田

昨年の7月から30回くらい、女性の集まる場を設け、今、どんなことについて自分が発揮できていないと感じているか、どうしてガマンしているのか、というような対話を深めてもらいました。対話によって、自分の生きづらさがどこからきているのか、深いところまで考えることができます。そして最後に、段ボール製のちゃぶ台を「たーっ!」と返しながら「わたしはこれをガマンしないぞー!」と叫んですっきりしてもらうんです。

この活動から、日本の社会のなかではいまだに女性が生きづらさを抱えていることがすごくわかってきました。そこから女性同士によるインタビューによる「アクションリサーチ」を展開。さらに、大きな区切りとして「自分らしく生きよう」とメッセージを発信する「ガールズパワー」パレードも企画しました。

コミュニティ・オーガナイジングを学ぶ

鎌田

コミュニティ・オーガナイジングではリーダーシップを学びます。ここではリーダー自身が答えをもっている必要はありません。リーダーには、他の人たちが考え、共有した目的を達成できるようにする役割がある。その責任はリーダーがしっかりと引き受けます。

コミュニティオーガナイジングを実践する中で、必ずしてほしい問いかけが3つあります。

鎌田

1つ目は「同志、すなわち問題に直面する人、その人と価値観をともにできる人は誰か」ということ。

2つ目は「同志が直面している困難は何か」。あなたが考える同志の問題ではなく、たくさんの同志に一対一やグループで会って、どんなことに関心があるのか、問題を感じているのかに耳を傾けます。

3つ目の質問は、これが味噌なんですけれども「持っている資源をつかって、いかに問題を解決できるか」。人というのは、じつはすごくたくさんの資源を持っています。一見問題を抱えていて弱そうに見える人でも、たとえばいろんなスキルや、時間、経験を持っているはずなんです。そして、コミュニティ・オーガナイジングでは、問題を持っている人たちが自分で立ち上がって問題を解決することをすごく大事にしています。

リーダーシップの5つの実践

鎌田

ワークショップでは、5つのリーダーシップの実践のかたちを教えます。

鎌田

1つ目が「ストーリーの共有」。社会問題に取り組む際の大きな課題は殆どの人は消極的だということです。心を動かすようなストーリーを共有していくことで積極性をつくっていきます。

2つ目が「関係に基づいたコミットメント」。社会運動では「お給料をあげるからやってください」とはなりません。対価のないなかで一緒にやろうと思ってくれるためには、関係づくりがとても大事です。

3つ目は「明確な組織構造」。ボランティアとか草の根活動って、往々にして友達関係みたいになって関係性がゆるくなりがちです。民主的でフラットな組織運営・構造をどうやってつくっていくかが重要です。

4つ目は「創造的な戦略」。3つ目の問いかけを思い出してください。どんな資源をわたしたちはもっているのか、問題を解決するためにキーパーソンをどうやって動かしていくのか、分析して、しっかりと戦略を練っていく。じつはここが、日本の市民運動の弱いところじゃないかなと感じています。

そして5つ目は「効果的な行動」。戦略をもってつくったアクションを行動に移していく。しかもその効果を測定できる、目標のある行動に落とし込んでいくことです。会社でたてる売上目標のようなものです。

リーダーシップというと、責任感が強い人が、自分が引っ張らなきゃとすべてを背負ってしまうことってありませんか。最初の段階ではそれも必要です。でも、その人がいなくなったら、活動はなくなってしまいます。逆に、みんなやる気があるけど、バラバラの方向を向いていることもよくあります。どちらも、市民運動の目指しているものではありません。

ではどういうリーダーシップを目指したいかというと、「スノーフレーク・リーダーシップ」です。スノーフレークとは雪の結晶のことです。雪の結晶は、中心から広がっていく形です。

鎌田

最初に立ち上がるのは1人かもしれない。たとえば、その1人が4人のチームをつくるとします。真ん中の人の役目は、4人のメンバーをリーダーに育てていくこと。育てたら、この4人がさらに人をリクルートして自分のチームをつくります。3人目の人たちがまたリーダーになってチームをつくっていく。簡単なことではありませんが、これを目指していくと活動が長続きし、強くなっていきます。

ワークショップの2日間のプログラムでは、1日目にストーリーの語り方や人との関係のつくり方を、2日目はいかに自分たちの資源をつかってパワーをつくっていくかといった戦略を学びます。

COJでは、ワークショップガイドも、オーガナイザーの手引きになるような手帳も、さらに100ページほどの論文集も、もともと英語だったテキストをすべて日本語に翻訳して、一般公開しています。ウェブサイトをぜひみていただければと思います。

心を動かすパブリック・ナラティブ

鎌田

「ストーリーの共有」について、ご説明しましょう。成功した社会運動をみていくと、そこに必ずストーリーがあって、みんなに共有されています。「パブリック・ナラティブ」といっていますが、マーシャル・ガンツ博士の造語です。

パブリックは「公共の、公の」、ナラティブは「物語」つまり、「公で語る物語」というのがパブリック・ナラティブです。パブリック・スピーキングというのがありますが、こちらは、姿勢をよくしたり、ボディランゲージを使ったり、アイコンタクトしたりといったテクニック的なもので、パブリック・ナラティブとは異なります。ある学生が、パブリック・ナラティブは「つや出しをするものではなく、内側からの輝きを出すもの」だと表現してくれました。

人が心を動かし行動に移すとき、そのストーリーにはつぎの3つの要素があります。

鎌田

ひとつは、「ストーリー・オブ・セルフ(わたしの物語)」。冒頭のわたしの自己紹介を覚えていらっしゃいますか? わたしの話をきいて、どんな価値観をもっていると思われましたか? 原体験を話すことによって、その人がこういう思いを持ったんだということが伝わりやすくなります。ここで、わたしと皆さんとのつながりをつくっていくわけです。

つぎに語りたいのは「ストーリー・オブ・アス(わたしたちの物語)」です。コミュニティに共通する価値観を語っていきます。このときも、具体的に、たとえばわたしたちはこんなことを乗りこえてきたよねとか、今までのわたしたちの共有するストーリーを話します。

そして「ストーリー・オブ・ナウ」です。今、わたしたちが共有する価値観に対して、こんな緊急事態が起こっている。ここでは、必ず呼びかける行動があります。いきなり「何百人分の署名を集めてください」というのではなく、「何月何日にみんなで打合せをしたいので来てください」というように、なにか自分にできるかもと思えるステップを呼びかけます。

このセルフとアスとナウをしっかり語っていくことによって、他者の共感をつくり出して、一緒に行動していく仲間をふやすきっかけが生まれていきます。

ストーリーの構成、筋立てとしては、「困難→選択→結果」とまとめていくと、ご自身やコミュニティのもっている価値観が伝わりやすくなります。これはセルフ、アス、ナウすべてに共通するフレームワークです。

わたしのストーリーでいえば、たとえば母の病気や公園がなくなってしまう「困難」がありました。社会に出て働いて、変えられると思っていたのに企業も政策も変えられないという「困難」のなか、アメリカに留学をして、市民の運動、市民参加を学ぶという「選択」をした「結果」、コミュニティ・オーガナイジングに出会って、今COJをやっていますというストーリーでした。最終的に、わたしという人間は「ひとりひとりの声が尊重される社会をつくりたいと思っている人である」という価値観がなんとなくでも伝わっているといいのですが。

ここで実例として、大学院生のジェームズ・クロフトさんのスピーチを見てください。

鎌田

冒頭、何メートルを落ちるのに何秒かかるという話から、すごくショッキングな展開になります。そこがストーリー・オブ・ナウにあたる部分で「こんな事態が起こってしまいました」と語る。そのあと、ジェームズ自身が小さいころバレエに夢中で青いレオタードを着て、木の床のにおいが大好きだった話。でも、そのつぎに体育の先生に「ホモだ」といわれたり、全校集会で校長先生に「ホモに哀れみを」といわれてひとりぼっちの気分だったという、すごくつらい思いが聞こえてきました。このあたりは、ストーリー・オブ・セルフですね。

そのあとに「ひとりぼっちの気分って、みなさんも味わったことありませんか?」という問いかけがありました。背が高かったり低かったり勉強ができたりできなかったり、みんなにもあてはまるような例をあげながら。それがストーリー・オブ・アスです。そこから裏庭の話。家に戻ってみたら、誰かが自殺していた。それはあなたの家族かもしれない、友達かもしれない。「今まさに自分の身近にも起こるかもしれない」と、うまくナウに戻っていきました。

続いて、ジェームズ自身がカミングアウトしたのは10年前だけど、ちゃんと公にしたのは1年前で、数年間無駄にしてしまったというセルフがあり、最後に自分はビデオをつくって、インターネットで流そうとしているという戦略を語る。そのためにはいろんな協力が必要だから「会議に来てください!」と締めくくっています。ここはナウですね。ちゃんと戦略を語り、アクションを呼びかけるところがパブリック・ナラティブになっています。

いきなりここまでつくるのはすごくたいへんなので、COJのワークショップではセルフ、アス、ナウと分解してつくっていきます。6人グループに1人コーチが入って指導しながら、お互いにフィードバックをしてストーリーをよくしていく学び方をとっています。

ここでご説明したのは「ストーリーの共有」だけですが、こういうかたちで関係を構築する方法や、戦略の練り方も学びます。実践していきたい人にはフォローアップのコーチングもやっています。台本をつくるのではなく、いついかなるときでもストーリーが語れるような訓練をするフレームワークだと考えていただければと思います。

自分のストーリーを思い出してみよう

鎌田

社会課題というと圧倒され、孤独を感じることもあると思います。「ちゃぶ台返し女子アクション」をやっていても孤独を感じますが、共感してくれる仲間は必ずいます。そのとき支えになるのはストーリーです。自分自身もなぜそれをやりたいのか、そこにしっかり芯があって語れると、ちゃんとつながってくれる人はつながってくれますし、自然に輪が広がっていきます。

鎌田

ストーリーというのは、すごくパワフルなものだと思いますので、みなさん自身、今、取り組んでいたり、気になっている社会課題があったら、それはなぜ気になるのか、その気になる価値観、思いがいつ生まれたのか振り返っていただけるといいと思います。

思い出すのはすごく時間がかかります。わたしも2年間くらいかかりました。それまでさんざん、なんであなたはコミュニティ・オーガナイジングをやっているんですかと聞かれても応えられないことが続く中で、ふり返ったり、お風呂に入りながら考えたり、人の話を聞いたりして結びついてきたんです。みなさんも、今日をきっかけにちょっと思い出してみてください。

講 師

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鎌田華乃子

NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン代表理事

横浜生まれ。子どもの頃から社会・環境問題に関心があったが、11年間の会社員生活の中で人々の生活を良くするためには市民社会が重要であることを痛感しハーバード大学ケネディスクールに留学しMaster in Public Administration(行政学修士)のプログラムを修了。卒業後ニューヨークにあるコミュニティ・オーガナイジングを実践する地域組織にて市民参加の様々な形を現場で学んだ後、2013年9月に帰国。COJを2014年1月に仲間達と立ち上げ、ワークショップやコーチングを通じて、コミュニティ・オーガナイジングの実践を広める活動を全国で行っている。
慶應大学グローバルセキュリティ研究所 客員研究員
ロータリー財団国際親善奨学生
Harvard Kennedy School, The Roy & Lila Ash Fellowship in Democracy

NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン