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2016年3月16日(水) Think College Vol.41

創造的な「学びの場づくり」に大切なこと
~子どもの主体性を育む学習塾の現場から~

講師:岩田拓真 (株式会社a.school 代表取締役)

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
3月のテーマは「学びの場づくり」です。

子どものころ、あなたは学校が好きでしたか? 勉強は好きでしたか?
「知識や情報を与える教育」から、子どもたちが自分からすすんで、未来につながる学び方ができるような場づくりへ。今、教育のあり方が大きく変わろうとしています。

生徒と先生がいっしょに楽しむワークショップ形式の「学習塾」でなにが起こっているか。
現場のお話をききながら、「学びの場づくり」において何が大切か、一緒に考えてみましょう。

創造的な学びの場って?

岩田

創造・探求型学習塾a.school(エイスクール)の岩田拓真です。
わたしはいま、教育の活動をしていますが、大学でやっていたのは脳神経科学。もともとは理系の研究者になりたいと思っていました。研究自体はいまも大好きなんですけれど、脳のどこか一部の専門家になるより、そういう研究を社会につなげる仕事がしたいと思い、研究室から飛び出して、メーカー企業の経営をサポートする仕事につきました。そのかたわら、ボランティア活動で子どもたちとふれあう活動をしているうちに、だんだんそっちのほうが楽しくなって会社をやめ、起業をしたという流れです。研究や経営のなかで学んできたことを子どもたちに伝えたいと思いながらやっています。

そもそも創造的な学びの場ってどんなものだろう。毎日やっていることなんですけど、今日、ここでお話しするにあたって、あらためて考えてみるとすごく難しくて悩んでしまいました。わたしのなかでは、たとえばマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボのように、大学の中でいろんな分野の人が混ざって研究している、すごくオープンな施設とか、バリ島にグリーンスクールといって竹でできた教室で学べる小学校があるんですけど、畑があって、牛もいて、そんな自然の中でのアクティブラーニングみたいなものがまず思い浮かびます。みなさんはどうですか。

「答えのない時代」の学びの場づくり

岩田

a.schoolをひとことでいうと、「答えのない時代」に突入しつつある今に対応したスクールといったところでしょうか。時代は、大きな転換点にあると思っています。わたし自身、コンサルタントをしていて、なかなか新機軸を打ち出せない大企業の苦しみを見てきました。個人レベルでも、どう生きたら幸せなんだろうと悩みながら生きている人ばかりです。

そういう時代に、いきいきと自分の人生を歩んでいく人って、どんな人だろう。それは自分で決断し、自分なりに考えて少しずつチャレンジしていく、そんな人なんじゃないかとわたしは考えました。

世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で最近発行されたレポートに、2015年から比較して5年後に重要となっているであろうスキルを予測したものがあります。2015年の10番目から2020年には3番目と重要度が上がっているのがCreativity、創造性です。おもしろいのが6番目に新たに挙げられているEmotional Intelligence、感情的な知能というか、頭で考えるのではなく感性を重視するということでしょうか。そして10番目にCognitive Flexibility、柔軟な認知能力というものも登場しています。これを見ても、「自分でつくり出す力」が重要になってきているのではないかと考えさせられます。

社会がこういうふうに変革していくなかで、どんな学びが大事になってくるか。重要なのはなぜ学ぶか、なぜ生きているか、という「Why」の部分ではないかと思っています。学校で学んだスキルや知識を大人になってから使うことはそれほどないかもしれませんが、部活をがんばったり、好きなことに打ち込んだりした体験、ワクワクしながら何かをやった経験っていうのは大人になってからも生きると思うんですね。

自分だからこそこういう決断をしているんだ、こういうことをやるんだとスタートして、走っていける、このスキルを子どものうちに身につけられたら、あとは「どうぞ、社会の大海原に漕ぎだしていってください!」と送り出せるんじゃないでしょうか。

だからa.schoolでは、従来の学びとはかなり違った、新しい学びをやっています。小学校高学年から中学生を中心に高校生まで、もちろん勉強はやりますが、その次につながるような学びというものをすごく意識した塾です。

創造性を育てる教育

岩田

ちょっとだけ個人的な話をさせていただくと、わたしはもともと学校にあんまりなじめるタイプではなかった。というより、好きなことにずっとのめり込んでしまうタイプでした。本を読んでいたら、授業が始まってもずっと読み続けていたり。小学校のころは石をコレクションしていて、どの石が硬いか、それぞれの違い、どんなところにどんな石があるに興味をもっていました。絵も好きでした。だいたい1年くらいはまって、そのあとはまた別のことに興味が移って夢中になる。そういうタイプだったので、学校で何時から何時まで座っていないといけないというのは苦痛でした。

もっと楽しく学ぶことはできるんじゃないかとずっと思っていたのですが、高校生のときにある先生との出会いがあり、大学に入って、自由に研究できるようになって「学びっておもしろいな」と思えるようになりました。

大学時代、大学の中に学生の創造性を鍛えるi.school(アイスクール)というのができたんですね。そこに通って、学んだのが「創造性って、こういうふうに育てられるんだ」ということ。どうやって考えたらいいのかとか、モチベーションとか、いままで自分自身のなかで表現できていなかったものが、うまく整理され、形にできるようになって……「こういう教育ができるんだな」というのが驚きだったんです。

そこにいたメンバーで、これを子どもにやってみようということになった。卒業してからも仕事をしながら土日に活動を続け、3、4年後にその活動を広げようと起業して、いまに至っています。

アクティブラーニングの実践

岩田

わたしたちが実践しているのは、いわゆるアクティブラーニングといって、自主的な学びの場です。最近は言葉が先行していて、「ハイ!」と積極的に手を挙げるのがアクティブなんていう誤解もあったりしますが、じつは静かだけどすごく考えている子もいるんです。そういう、ほんとうの意味での「アクティブ」というものをつくりたいと思っています。

一応は学習塾なので、科目ごとに基礎力をみがく学習コースと、総合型の探究・創造ラボという2種類の授業があります。探究・創造ラボのほうは、小・中学校の科目をはじめいろんな分野につながる物理、化学、生物、それから計算したり分析したりすることもみんなカバーしています。さらに言葉で文章を書かなければいけないし、英語で書くこともある。そういうものを総合的に学ぶ授業です。だいたい4割くらいの生徒がこの総合型の授業を受けています。

数学で大事なのは、試行錯誤力です。数学が嫌いな子って、問題をちょっと解いてみて、わからないとあきらめちゃうんです。もしかしたらこうかもしれない、それともこうかもしれないと、いろいろ試して動ける子って、数学が伸びるので、そういう力をみがく授業をしています。

もうひとつ、数学が嫌いな子は、それが何につながるのかわからないんですね。科目が分断されているために、うまく教えられていない部分です。小学校くらいなら、おつりの計算とか実践的な意味がわかりやすいと思うんですけど、微分積分になってきたら意味がわからなくなってくる。そういうところをちゃんとつなげるようにしています。

岩田

基本的に楽しくやると身につくので、ゲームやクイズ、パズルを活用して、思考ゲームみたいな形式で、グループで教え合ったりしながら学んでいます。そのあとに算数や数学の問題をやると、「さっき考えたようにいろんな切り口から考えたら」とアドバイスするだけで、「あ! そうか」と取り組めるようになるんです。

あとは、論理的な思考力ですね。深夜番組で3桁の数字当てゲームというのがあったのをご存じでしょうか。お互いに考えておいた数字を、推理しながら当てていく。わたしだったら、最短で答えにたどり着くロジックがわかっていますが、子どもたちはわからない。そこであとから「どう考えたの?」と順番をひとつずつたどって、「ここで工夫したらもっと早く気づけたんだけど」とみんなで検証します。そうすると論理的に思考を整理して次を推測していくことがおもしろくなってくる。みんな家でお父さんとやったりしだすんです。そんなふうに、いつの間にか夢中になっちゃうようなものをいれると、思考力が伸びる傾向があります。

エンジニアとつながるワークショップもします。たとえばペーパータワーといって、紙だけでどれだけ高いタワーをつくれるか。競い合って試行錯誤力を鍛えていきながら、同時に、建築でいう構造計算のすごくシンプルなものも体感できるんです。

総合的な授業ではまた、創造と探求、伝達、コミュニケーション、表現といった実践力をみがく授業をしています。論理的なもの、感性的なもの、外の課題に挑むものと、自分と向き合うもの。授業の形式としては、実際に「考える」、「つくる、表現する」、「振り返る」というサイクルをぐるぐるまわしていくような学びですね。ワークショップはだいたい1回2時間で4か月間に15〜16回。1回1回のそれぞれの流れのうえに、全体としての大きな流れで「考える」、「つくる、表現する」、「振り返る」をつくっていきます。

岩田

わたしが前に立って授業をしていることはかなり少なくて、時間にしてだいたい1割ぐらいです。あとの8割、9割は子どもたちがしゃべって、考えているか、お互いに議論しているか、逆に子どもたちが授業をプレゼンしています。対話、議論、発表、じっくり考える。そんな時間が多い授業です。

中1生がワークショップを企画する

岩田

去年の2学期には「人間」というテーマを扱いました。
たとえば哲学からのアプローチ。サークルになって真ん中にボールを置いて、とった人がしゃべるんです。このとき、聞き手は否定したり議論したりしたらだめで、話し手が自分なりに感じたことを話す。それを繰り返す。哲学には正解はないので、そういう形式で対話をしていくんです。

「人間ってなんだろう」「どこまであったら人間だろう」。脳だけという子もいれば、心臓は人間だという子もいる。いろんな観点で子供たちが発表して、それに刺激をうけて大人も混ざったりします。人工知能、病気のこと、心のこと、最初にいろんな研究を見せたうえで、「人間」に関して自分で好きなテーマを設定します。

ある子は、お父さんが太っているというので肥満に興味を持って、どの国が肥満が多いのかとか、人と動物の体脂肪率をひたすら調べました。その子によると、ブタって肥満の象徴みたいにいわれていますが、じつはシロクマの体脂肪率のほうが圧倒的に高いんだそうです。

岩田

企業と組んで、子どもや若者向けの商品開発を考えることもあります。大手化粧品会社から、子どもや若者が内面からきれいになる商品をつくってほしいという依頼があったときは、どういう課題があるかを考えたりしました。子ども同士でインタビューをさせたりすることもあるのですが、インタビューの仕方やアイデアの考え方みたいなものだけ教えて、あとは自分たちでやってもらいます。

アクティブに学ぶ授業を受けて、興味や関心が広がった子どもたちは、やがて自分で好きなことをやりたいと考えはじめます。

歴史が好きな中1の男の子は、歴史好きを増やすワークショップをやりました。20〜30人を対象としたイベントで、ここまで自分で好きなことを企画してやりきるという経験はなかなかないと思います。ふだんの授業の中で力がついてきた子は先にどんどん進んでもらって、その背中をみんなに見せてもらう。いまはちょうど、一人の子の背中をちょっと押してあげたことで、まわりの子へだんだん刺激が広がっている状況です。

岩田

この子がa.schoolに来てくれたのは1年前の小6のころ。お母さんから「おもしろそうだから、行ってきたら」と送り出されてきたのですが、初日は5分ほど遅れてしまい、中でワークショップがわいわい始まっているドアの外でどうしようか迷ったあげく、帰っちゃった。その子が、いまやワークショップをコーディネイトするまでになっている。ほんとうに、成長して変わったんだな、とすごく感じます。

「自分も本気で楽しむ、学ぶ」

岩田

a.schoolの総合型の授業では、デザインワークショップというものをやります。連想を通じて新しいデザインを考えるのです。たとえば文房具。もしかしたら鉛筆は、アリが乗るための新幹線かもしれない。もしかしたら木がはえてくるかもしれない。育つかもしれない。削られて泣いているかもしれない。「かもしれない」をたくさん考えて、連想を広げていく。そのなかから「育つ鉛筆」みたいなプロダクトを考える。

これを通じて伝えたいのは、答えがない問いに挑むことの楽しさです。
そのあとアイデアをもう少し練りあげて、実際にものを工作してつくってみて、終わったときに何を学んだかふり返ります。このプロセスを1つひとつ丁寧に設計するということをわたしたちは重視しています。

岩田

総合型の授業をつくるにあたって、わたしたちは最初にまず伝えたいことを練りあげます。そのあとに、どんなプロセスだったら子どもたちは学べるかを考え、そのうえでファシリテーションというか、問いかけや流れの中でサポートするやり方を工夫したりしています。

ファシリテーションを考えるうえでは、子どもたちにも説明している3つの基本的な心得があります。

1つ目はまず、ワクワクすることに挑戦しよう。逆に面白くないことはやらなくていいよ。ときどき、つまんなくなった子は歩き出したりするのですが、おもしろいと思えば戻ってきたりするので、そういうのも許容しています。

2つ目は、答えはいろいろあるからとにかくつくってみよう。正しいとか、いいとかないからとにかく出してみよう。

3つ目は、人との違いが生じることもあるけど、人のいいところを見よう。いいところを見つけて伸ばしあおう。

この3つをワークショップではつねに前面に出していきます。

一方、ファシリテーター側の心得としては、「自分も本気で楽しむ、学ぶ」こと。これがスタートラインとして大事です。親子で来てもらうときには、親御さんにも本気で学んでもらいます。そして背中を見せる。面と向かってこうだぞっていうより、背中から学んでいることってけっこう多かったりする。横だともっといいですね。自分の横で、お父さんが本気で学んでいる様子、子どもって意外と見たことがないんですよ。

岩田

ファシリテーターによる子どもたちの観察も重視しています。アイデアを考えたり、困っているときにサポートするにしても、その子がどういうことで、なにを感じているのかは、よく見ていないとわからないものです。アイデアが出ないのは知らない人ばかりで緊張しているからだけかもしれないし、そうしたら普通に他愛もない会話をしてあげたほうがいい。

子どもの目をしっかり見て、様子を仔細に観察して、自分なりに分析してもらったことをみんなでシェアします。「この子と今日こんなことがあってこう思ったよ」、「ああなるほどね」というふうに情報を共有。この子のことをちょっとわかってきたなと思ったら、その子がより自分を出しやすいように問いかけてあげて、考えを引き出してあげる。それでも無理なことも、うまくいかないこともあります。そのときは、いったん放置して、ほっておきます。意外とそれでうまくいくこともあるんです。

プレッシャーから解放してあげる

岩田

場づくりとして気をつけていることのひとつは、いつ「服を脱がす」か。もちろん、ほんとうに服を脱がすわけではありません。とくに中学生になってくると、学校と家とでけっこうプレッシャーがかかっている子っているんですよね。子どものころって、新しいコミュニティに自由に出かけていくことは難しいので、「第三の場」ってすごく大事です。

岩田

ソファが大人気で、ほんとに寝てることもよくあります。新しい人が入ってくるとびっくりされるんですけど、ソファに寝そべって漫画読んだり、みんなリラックスしてすごくだらっとしてますね。ちなみに、うちは教室に杉の木を全部ひいていて、靴を脱いでもらうようになっています。家でも靴を脱ぐとちょっと安心するじゃないですか。天然の木なので、香りもしますし。そういう空間のトーンなんかもいい効果をあげているんじゃないかと思います。

本も数百冊から1千冊近くあります。わたしの持っていた本を置いてあるだけなので、難しい本も多いんですけど、絵本とか子ども向けの本、漫画まで幅広く置いています。ときどき、この子はこの本をおもしろがってくれそうだなと思ったら薦めることもあります。でも、誰かに言われたらその瞬間に読みたくなくなるってありますよね。だから一回薦めたらちょっと引いて、置いておくんです。その場では「ふーん」と反応が薄くても、あとで気になって読んだりしています。それが数か月後になることも、どこでどう芽が出るかもわからないので、刺激ありそうなものを置きながら、薦めすぎない空間をつくっています。

あとは人ですね。なかなか学校で会わないような、面白い生き方をしている人を呼んできて、こんな大人がいて、こんなこと考えてるということを等身大で話してもらったりします。
こういったことに気をつけながら、創造的な学びの場をつくりたいと思ってやっています。

最近、さらに学びの場を広げるための活動もしていて、うちの教材研修を他の企業や塾に提供することも始めています。
ちなみに、社員はわたしともう1人という体制の会社でやっています。社会人や学生さん、いろんな方に手伝っていただきながらやっているので、もしこういう学びの場づくりに興味のある方がいらっしゃったら、ぜひご連絡いただければと思います。

講 師

takuma-iwata
岩田拓真

株式会社a.school 代表取締役

1985年京都生まれ。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了。修士号(工学)。東京大学i.schoolにてイノベーション創出の方法論について学ぶ。大学卒業後は、経営コンサルティング会社Boston Consulting Groupにてコンサルタントとして勤務し、その傍ら小学生から社会人まで様々な層を対象とした教育プログラムの企画・運営に携わる。その後起業し、a.schoolを創業。現在はa.schoolにて、学習塾の運営、様々な教育プログラムの企画・運営、学校での出張授業等を行う。NPO法人 Motivation Maker副代表理事。NPO法人 放課後NPOアフタースクール アドバイザー。

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