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2016年5月18日(水) Think College Vol.43

だまされて売られる子どもを守りたい。
~かものはしプロジェクト、カンボジアからインドへ~

講師:草薙直基 (認定NPO法人かものはしプロジェクト 広報・ファンドレイジング担当)

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
5月のテーマは「子どもを売られない世界をつくること、その後」。
子どもたちの人身売買、児童売春。日本人にとっては身近な問題ではないかもしれません。でも、とても重要で、解決しなければならない大きな問題です。

2012年の11月、第1回Think Collegeで、私たちは認定NPO法人かものはしプロジェクトの活動について聞きました。そして「子どもが売られない世界をつくる」ために、自分たちにできることを一緒に考えました。
それから3年あまりが経った今、活動の成果や現状を共有し、さらに、私たちにできることを考えてみたいと思います。

「子どもが売られる」とはどういうことか?

草薙

認定NPO法人「かものはしプロジェクト」の広報担当、草薙と申します。「世界の子どもが売られる」という問題は、ふだん日本に住んでいると、身近な問題とはいえないかもしれません。たとえば「隣の子が最近売られてしまったらしい」なんて話はあまり聞きませんね。

そこでまずは子どもたちが売られる売春宿の現状について、みなさんと共有したいと思います。

ここでいう売春宿とは、子どもたち、おもに女の子たちが性的な行為を強要されるお店のことです。

カンボジアの売春宿で仕事をさせられていたある女の子は、もともと隣のベトナムに住んでいました。両親が一生懸命働いても十分な収入が得られないため、長女である彼女が自ら出稼ぎにいく決心をします。仕事を探しているとき、悪い仲介業者から「カンボジアでカフェの仕事があるよ」とだまされ、この店に連れてこられたのでした。

仕事をさせられている女の子たちのなかには、5歳とか9歳といった幼い子もたくさんいます。ペドファイルと呼ばれる児童性愛者、小さい子しか性の対象にできない大人の人がいるがゆえに、年齢1桁の子までもが被害にあっているのです。

彼女たちが1日に相手にする客の数は、1人や2人ではありません。10人あるいは15人といった人数を強引にとらされています。

こうした被害者は、現在、毎年180万人ずつ出ているといわれています。1分間あたりに換算すると3〜4人。今、お話を始めて5分ほどですが、この間にも世界中のどこかで20人くらいの女の子たちが被害にあっているのです。

児童買春の「ビジネスモデル」を崩す

草薙

基本的に彼女たちは望んで売春宿に仕事をしにいっているわけではありません。だまされて連れていかれています。当然ながら、最初に客の相手をするとき、彼女たちは抵抗します。「いきなり知らない男の人とそんな行為はしたくない。家に帰して欲しい。お母さんに会いたい」と、彼女たちは泣き叫んで客の前で抵抗します。

客にしてみれば、お金を払っているのに、泣き叫んで暴れられては話が違う。売春宿にクレームをつけます。

すると売春宿のオーナーは女の子を別室に呼び寄せ、二人きりになって「客の前で暴れるとこのような目にあうぞ」と、強引に髪を掴み上げ、思いっきりなぐりつけます。体の小さい彼女たちが地面に倒れこんでしまうと、何度も踏みつけたり、吸っていたタバコの火を腕に押しつけたりと暴行を加えます。

そうした行為が繰り返されるなかで、彼女たちの頭の中に「客の前であばれると、痛い思いをする」とすり込みができてしまい、だんだん客の前で抵抗することができなくなるのです。売春宿としては都合のいい状況ができあがります。

一方、彼女たちは日に日に体にアザがふえ、気持ちもどんどんすさんでいきます。このため、売春宿が摘発され、レスキュー団体が入って運よく救出されたとしても、村に戻った女の子が、自ら命を断ってしまうこともあります。エイズなどの感染症にかかって命を落としてしまう子もいます。

ここまで、農村から出稼ぎに出た子どもが「商品」として、売春宿に連れていかれ、仕事を強要されるという一連の流れをお話ししました。

そもそもこの問題は、このような「ビジネスモデル」が成り立ってしまっているがゆえに、発生しているのではないか。われわれは、そんな仮説を立てて活動をスタートしました。

このビジネスモデルを壊すことで問題を減らしていこうと考えたわけです。

そのために大きく2つのアクションをおこなっています。1つめは、農村から子どもたちが出稼ぎに出ていかなくてすむような状況をつくること。2つめは、売春宿のオーナーや客たちがやりたい放題な状況を改善し、彼らを自由にさせないための活動です。

カンボジアのコミュニティファクトリー

草薙

かものはしプロジェクトは、2002年、当時状況がもっともひどいといわれていたカンボジアから活動を開始しました。

1つ目の活動が、コミュニティファクトリーの経営です。貧しい農村地帯に工房をつくり、現地の女性たちがいろいろない草の雑貨商品を生産できるようにしました。

ここでは経済的に苦しい母親や、自ら被害にあうリスクのある10代後半の女性を雇用しています。ちゃんと仕事をして、きちんと収入を得る。そうすれば出稼ぎにいく必要がなくなるので、結果的に彼女たち、あるいは彼女たちの子どもを守ることができるというのが、コミュニティファクトリーの存在意義です。

キャパシティは最大100人くらいなので、すべての女性をケアするのは難しいのですが、その代わり空き時間を使ってクメール語の勉強をしたりできるスクール機能をもたせています。細部まで丁寧に、責任をもって仕事をするといったプロ意識を養ってもらい、ファクトリーをやめた子が次の仕事も探せるように、サポートもおこなっています。

地元の警察官を教育・支援

草薙

2つ目は、売春宿のオーナーや客を自由にさせないための活動、すなわち「法執行の整備」です。具体的には、カンボジア現地の警察支援をおこないます。

カンボジアという国は、もともと内戦がたえず繰り返されてきた歴史があり、国家予算がほとんど軍事費に費やされ、それまで警察官をトレーニングするだけの十分な予算がとられていませんでした。当然、警察官の能力はどんどん低下します。

まず法律を知らないので、何が悪いことかわからないような警察官がたくさんいました。多少法律を理解している警察官も、取り押さえるスキルがない。悪いことをしている人を見つけたとしても、なにをしたらいいかわからない。そういう警察官がたくさんいたのです。

売春宿のオーナーたちにしてみれば、違法な営業だろうが警察がザルな状況ですから全然こわくありません。収益性があってリスクはほとんどないという、「おいしいビジネス」として売春宿の運営が成り立ってしまっていたわけです。

そこでかものはしプロジェクトは、警察を統括している内務省と提携してカンボジアの警察の能力向上に努め、法律の勉強をする研修や、実技研修のプログラム内容を考案し、資金提供をおこなってきました。

グラフは、2001年から2010年までのカンボジア国内における性犯罪者の摘発数の推移です。

国全体で法整備をしていった背景もあり、大きく右肩上がりに伸ばすことに成功しています。

これによって、カンボジアという国の中で抑止力が働くようになってきました。摘発をまぬがれた売春宿のオーナーが「このまま続けると自分も捕まるかもしれない」とビジネスをやめたり、新規の参入者が思いとどまるような状況が生まれつつあります。

サリナのストーリーに見るインドの現状

草薙

カンボジアでは一定の成果が上がってきたわけですが、かものはしプロジェクトのゴールは、カンボジアだけではなく、「世界中から」この問題をなくすことです。2012年からはフィールドを広げ、次はインドという国で活動をスタートしました。

なぜインドなのか。その理由は、この国では性産業に関わったことのある女性たちの社会復帰が非常に困難であるということに帰結します。インドには男尊女卑の文化があり、まず女性であるというだけで身分の低いものとみる風習がある。それだけならまだしも、性産業に関わったことのある人は、たとえその人が被害者であったとしても、もはや人ではなく汚らしいモノとして見る風習があるからです。

人身売買の被害に遭ったサリナという女の子のストーリーをお話ししましょう。

サリナは、インドの西ベンガルの貧しい農村地帯に住んでいる女の子でした。両親が共働きで農業をしています。一日3食食べるのがやっとな状況で、サリナをはじめ7人の子どもたちは学校にも通っていませんでした。

長女である彼女は、「私も働いて弟や妹たちが学校に行けるようにしたい。出稼ぎに行かせてほしい」と両親に相談します。「おまえはまだ17歳だから、心配しなくていいよ」と優しく諭され、いったんはあきらめるのですが、いっこうに状況はよくならない。結局サリナは、両親に内緒で仕事を探しに出てしまいました。あとで両親に話せば納得してくれるにちがいない、と考えたのでした。

すると、彼女のいとこの女性が「いい仕事を知っているから紹介してあげるよ。うちに遊びにおいでよ」と声をかけてきました。ところが、大喜びでいとこの家を訪ねたサリナは、出された飲み物を飲んだとたんに気持ちが悪くなり、意識を失ってしまいます。その飲み物には、睡眠薬などの薬物が含まれていました。

しばらくして目を覚ますと、そこはなぜか知らない電車の中。周りを見回してみると、隣に知らない男の人が座っています。「わたし、いとこの家にいたんですけど、なぜいま電車にのっているのですか? どこに向かっているんですか? あなたは誰ですか?」とサリナは勇気を出して男に質問しました。すると男は、「おまえはいとこの女にだまされて、売り飛ばされたんだ。もうしばらく静かにしておけ」と答え、サリナはふたたび睡眠薬を飲まされてしまいました。

意識を失っている間に、サリナはインドのムンバイというエリアに連れていかれます。そこにある売春宿のひとつで、仕事を強いられることになったのです。

売春宿の中で彼女たちは、布団がひとつ入るくらいのスペースに一人ずつ閉じ込められています。深夜まで客がくるため、朝の5時や6時くらいから睡眠をとり、昼ごろに目を覚まします。しばらくすると客が部屋に入ってくる。ときどき少量の水と食料を与えられて飢えをしのぐような生活です。

数年後、彼女は現地のレスキュー団体に発見されて、運よく村に戻ることができました。ところがインドの場合、ここで一件落着とはいかない。第二の地獄が始まります。具体的には、まず仲良くしてくれていた友だちが急に離れていきます。まわりの親たちが自分の子に「あの子は汚れた女だから、口をきいちゃいけないよ」と教え込むのです。

こうしてまず孤立化が始まります。それだけならまだいいほうで、実際は、夜寝ているところに、顔を布で隠した男たちが複数で暴行を加えにやってきたり、家を出ている隙に家を燃やされてしまったりと悪質な嫌がらせが繰り返され、彼女たちは精神的にもほんとうにぼろぼろにされてしまいます。せっかく村に戻れたサリナも参ってしまい、家に閉じこもるしかありませんでした。

「トラフィッカー」の罪を問う

草薙

インドを中心とした南アジアと並んで、アフリカのほうでも、人身売買の被害者はかなりの数にのぼります。しかし、アフリカの女性たちは救出され村に戻ったあと、結婚したり、仕事についたりと社会復帰が比較的しやすい状況があるのに対し、インドは社会復帰が非常に困難だということわかってきました。

インドにおける人身売買の被害の状況を見ると、ひとつのエリアに向かって、インド各地からルートが集中しています。

集中しているところが、サリナも連れてこられたムンバイという都市です。

ムンバイは、経済発展が著しいインドのなかでも発展しているエリアのひとつで、大きなビルがどんどん建設され、経済も伸びています。人口が集中している分、裏路地では性産業も活発で、その売春宿街に各地の田舎の村から女の子たちが売り飛ばされています。

サリナのように被害にあう女性は、「トラフィッカー」と呼ばれる人間にだまされて売春宿に連れていかれます。トラフィッカーというのは、売春宿のオーナーから多額のお金をもらい、女の子たちを誘拐する仕事をしている人たちのことです。

サリナのいとこの女性や、電車にいた男などもトラフィッカーに相当します。

サリナが住んでいる西ベンガル州において、明らかになった人身売買事件が350件あるのに対し、トラフィッカーに有罪判決を下すことができたものはたった5件、わずか1.3%です。かつてのカンボジアと同様、搾取する側がやりたい放題な状況ができあがってしまっています。

そこでわれわれは、有罪判決率を高めていくことを考えました。インドでも、悪いことをした人はちゃんと有罪になるという状況をつくりあげる。それによってカンボジアと同じように抑止力を働かせ、問題をなくしていこうというわけです。

いろいろ調査していったところ、インドにもこの問題をなくそうとしている有力なNGO団体がいくつかあることがわかってきました。草の根団体なので一つ一つは大きい団体ではありませんが、そのような団体とわれわれかものはしプロジェクトがパートナーシップを組んで、連携しながら現在活動をスタートしています。

ムンバイのレスキューを専門としているNGO団体とは、女の子たちの救出で提携をとっています。

救出した女の子たちを、村に戻したあとは、有罪判決を勝ち取るために、彼女たちの証言が必要です。といっても、証言するのも簡単なことではありません。搾取されたあげく、汚れたモノ扱いされる彼女たちにとって、人前に立ち、当時のことを話すということはとてもつらいことです。

そこで心の回復を最優先と考え、精神のケアを専門としている現地のNGO団体とともに、自尊心を回復していくようなプログラムを提供しています。

さらに、裁判支援をしているNGO団体と一緒に、有罪判決を勝ち取る前例を積み重ねていこうとしています。

まずはもっとも被害者の多いムンバイ−西ベンガルというルートで、ひとつ成功モデルをつくります。それをほかのルートに応用し、最終的にはインド全域からこの問題をなくしていくという戦略をとっています。

自立を支援するカーリャプロジェクト

草薙

さきほどのサリナのストーリーに少しだけ戻ります。娘を立ち直らせたいと、彼女のお母さんが地元のNGO団体に連絡をとりました。そこから、われわれかものはしプロジェクトにつながり、今、サリナは「カーリャプロジェクト」というプロジェクトに参加してくれています。

このプロジェクトは、日本円で3万円くらいの資金をもって、自分で小さなビジネスを立ち上げるというもので、資金はわれわれや現地のNGOが提供しています。

この資金を元手に、サリナは村からすこし外れたところに雑貨屋を開き、インド人が額につけるビンディというアクセサリーや小分けにしたシャンプーなどを販売しています。

このプロジェクトの目的は、経済的自立のほか、精神回復ということにかなりの重きをおいています。搾取されるだけの日々を数年にわたって過ごしたため、彼女たちはわれわれ日本人が当たり前にもっているような、自分の人生を自分でコントロールできるという感覚をなくしてしまっています。お店を運営しながら、自分で仕入れるものを決めて、自分で販売する。そういった能動的な行為を繰り返していくなかで、自分の人生は自分でコントロールできるもの、という感覚を取り戻してもらうのです。

サリナは言います。

「わたしはこれから、わたしを酷い目にあわせたいとこの女性と裁判で戦いたいと思う。でもそれは仕返しではなく、自分と同じように被害にあう女性を今後は西ベンガルから出さないため。有罪判決を勝ち取ることができたら、それは状況を変えるための小さな一歩になるはず」

サリナのように前を向き始めた子が、少しずつではありますが、一人また一人と増えてきています。

かものはしプロジェクトを通じて、わたしたちにもできること

草薙

世界には、本当にいろいろな社会問題があります。かものはしプロジェクトは、そのなかでも子どもが売られる問題にフォーカスを当てて活動しています。逆にいえばこの問題以外は扱っていません。それは、この問題が、被害にあった子どもたち、おもに女の子たちの心身をともに傷つけるとても大きな問題であるからです。

扱っているのが性的問題であるがゆえに、日本ではメディア掲載がなかなか難しいのが現状です。そのため、われわれは講演活動に力を入れています。

今日、この問題を知ってくださったみなさんには、ここから行動につなげていただけるとありがたいと考えています。けしてハードルが高いことではありません。みなさんの大切な方に「子どもが売られる問題を聞いたよ」と情報をシェアしていただけるだけでも立派なアクションのひとつです。

それ以外に簡単な方法を2つだけ紹介します。

ひとつは、われわれのサポーター会員になっていただくこと。月々1000円からの継続支援によって、かものはしプロジェクトを応援していただくというものです。

現在、日本国内のサポーター会員は3880名(2016年5月時点)。インドは資金が追いついておらず、先ほどのムンバイ−西ベンガルのひとつのルートを断つためには6000名の方に応援していただく必要があります。もし、6000人のうちの一人として応援してくださる方がいらしたら、サポーター会員になって応援していただけると非常にありがたいと思っています。

2つ目はインターンシップのプログラム。国際協力、NPOに興味のある大学生、社会人の方々を受け入れています。大学生は半年以上、社会人は3か月以上、かつ週15時間以上勤務できる方というのが条件です。大学生は現在授業と並行するかたちで10人ほどの参加しています。社会人に関しては、NPOとかNGOの仕事に転職したいと考えている方などに、インターンシップで経験を積んでいただく場を提供しています。随時受け入れていますので、興味があればホームページをご覧ください。

問題は深刻な状況ではありますが、われわれ自身もこれまでの経験を通して、活動していけば希望となるものが1つずつ見えてくる、そんなことがわかってきたところです。これからもあきらめずに活動を続けていきたいと思います。

講 師

naoki-kusanagi
草薙直基

認定NPO法人かものはしプロジェクト 広報・ファンドレイジング部担当

1986年6月2日生まれ 東京都立川市出身。
2006年、学生時代にベトナムを訪問した際に貧富の差を目の当たりにする。そのような現実をなくしたいと世界の不均衡をなくす活動を志す。大学卒業後、一般企業に勤務した後に、かものはしプロジェクトに入職する。国際ソロプチミストやロータリークラブ、ライオンズクラブ、倫理法人会等、社会貢献活動を行っている団体や全国の経営者の会等で問題をなくすために講演活動を行っている。

かものはしプロジェクト