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2016年6月15日(水) Think College Vol.44

子育てしやすい地域をつくる
〜「ママプロぐんま」の取り組みとこれから〜

講師:都丸一昭 (一般社団法人ママプロぐんま 代表理事)

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
今回のテーマは「子どもを育てるママを応援する」こと。

子育てって、母親1人ではとてもできないたいへんなことです。
孤立して1人で抱え込んでしまったり、やめたくない職場をあきらめてしまったり。
そんなお母さんたちを応援する活動に、群馬県高崎市で取り組んでいる人がいます。

なぜ高崎なのか? そこにも理由があるようです。
子育てと地域づくりをつなぐ実践例のお話をききながら
「Think global, Act local.」を、一緒に考えてみませんか。

テレワークで多拠点に活動する

都丸

「ママの笑顔を増やすプロジェクトぐんま」略して「ママプロぐんま」の都丸と申します。群馬県の沼田で子育て、高崎で仕事、そして東京で仕事をとってくるという3つの拠点で活動しています。

僕たちが目指しているのは、高崎を生活圏にしている女性が2人目の子どもを産みやすい地域づくり。そして高崎や群馬県で生まれ育った人たちが大人になって地元に戻ってくるような地域づくりです。そのために、子育ての領域からアプローチしています。

子どもを産みやすくするひとつの鍵は、仕事をしながら子育てできる環境を整えること。出産のために仕事をやめる女性の平均年齢はだいたい31歳といわれています。それまで8年間くらいはなにかしら仕事のキャリアを積んでいるわけです。そのうち6割くらいが出産離職をする。でもほんとうは子育てをしながら働きたいというニーズはあります。そこでテレワークという、子育てと両立しやすい働き方ができる環境を用意して、つないでいこうというのが僕らの仕事です。

テレワークとは「離れたところで働く」こと。会社などに通勤せずに自宅とかサテライトオフィスで仕事をするというスタイルです。

具体的には、高崎市駅前にあった空き家の1つを改修して「タカサキチ」という拠点をつくりました。「テレワークセンター」と「子育てサロン」という2つの機能を持たせ、コワーキングスペースの一角に子連れ可能なスペースがあって、「子連れで仕事に来ても大丈夫ですよ」と呼びかけています。

そうした拠点で行うのは、たとえば寄付金を財源とする公益財団法人の仕事で、たとえば子宮頸がんや子宮内膜症の予防キャンペーンといった女性の健康啓発、ママの復職やキャリアの創出、働き方の提案などの分野で年間プロジェクトを引き受けています。寄付金財源のプロジェクトと、そこからの委託というかたちでweb、チラシ、イベント企画、人のキャスティングといったクリエイティブ業務を、ママさんテレワーカーを中心としたフリーランサーの組合で請け負うわけです。こういうかたちで、もうすでに東京圏の子育てテレワーカーとは50人くらい連携ができています。

2015年には総務省のふるさとテレワーク推進事業に取り組みました。高崎のほかにも白浜とか北海道とか、沖縄、徳島と各地が参画した全国的な試みなんですけど、そのなかで僕たちは4か月間かけて、テレワークの就業規則が何もないような企業でテレワークを導入できるようにサポートし、結果として専門性の高い人材をスポット活用できるようにしたり、社員のライフイベントをきっかけにした退職を予防できるようにしたりしました。

この事業を通して、1件ですけど実際に高崎に進出してもらうこともできました。進出してくれたのはPepperというコミュニケーションロボットの開発業務です。過疎化などが原因で人材が失われつつある地方都市の課題を一緒に解決していこうという意味で、開発拠点を東京から高崎に移してくれたんです。

大都市東京を、高崎が補完する

都丸

東京都の合計特殊出生率(女性1人が一生に生む子どもの平均数)は1.15(2015年)。待機児童問題があって、土地の値段も高い。世界一子育てしづらいんじゃないかというくらい大変な状況だと思います。でも東京には仕事があります。そして大企業が集積している東京では、時間と場所を選ばず働ける多様な仕事が増えてきています。

一方の高崎は合計特殊出生率1.55で、待機児童問題はありません。住環境もいい。だけど、仕事が少ない。Uターンでないとなかなか地縁と結ばれづらいという側面もあります。そこを私たちが補っていくわけです。

子育て期には課題がいろいろあります。たとえば「子育て」の相談は子ども家庭課、「就労」のほうは産業政策課で、ハローワークは厚生労働省管轄というぐあいに、行政は縦割りになりがちです。ハローワークへ行くと「子どもをどこかに預けなきゃだめですよ」といわれ、子どもを預けたいと家庭課に行くと「働いていないと優先度は低いですよ」といわれてしまう。

共働きをしたいのに困っているママさんたちの状況をみると、子育てしながら働ける場をつくることと同時に、行政や社会から孤立しないこと、この2つをワンストップで受けていくことが必要だなと感じます。孤立を予防するための活動としては、地元で840年の歴史がある山名八幡宮という神社と一緒に、普通の公園では禁止されてるようなたき火や穴掘りみたいな遊びができる場をつくって、とくに転勤族など孤立しがちな未就学児のママさんたちとのつながりをはかっています。

いま、平均的には31歳くらいで初産を迎えると思うんですけど、そういう女性にとって生みやすくて、育てやすくて、仕事復帰しやすい、こうした条件を兼ね備える地方都市として、高崎は東京という大都市を補完できる位置づけにあると思います。家を買う場合でも、高崎なら1800万円くらいでいい感じの庭つき一戸建てが買えますが、東京なら郊外の立川あたりでも5〜6000万円くらいかかるでしょう。新幹線で通勤することを考えても、一生涯で計算すればおつりがきます。

もうひとつ、子どもたちの情操教育的な意味で、高崎は大きなポテンシャルを持っていると思います。小さいころから子どもを家に閉じ込めないで、扉をあけたらイモムシがいる、ダンゴムシがいる、そんな自然いっぱいの環境を高崎なら提供できます。そして、パパもママもジジもババも関わる地域あげての子育てができます。人と自然に囲まれながらの愛着形成とか、自己肯定感といった基礎的な部分を自分のなかにつくりあげていくことって大事です。そういうことを通して、失敗を恐れず新しいことに挑戦できるおとなに成長していけるんじゃないかと思います。

そう考えるようになった根拠は、僕の原風景にあります。僕が育ったのは、標高1100mの長野県小海町。冬は雪が深くて、春になるとすごい青空が広がって、雪が溶けて道に川ができるんです。その川に太陽の光がキラキラ反射して「すがすがしい」ってこういうことだなと子ども心に全身で感じたものです。

そういう原風景や原体験をより多くの子どもたちに提供していきたい。自然の美しさとか厳しさとかを高崎で身につけて、あとは東京でもどこでも出て行って稼いで成長していってもらう。こんなかたちでうまく大都市と地方都市が補完し合っていけたらいいと思っているんです。

「かっこいいおとな」を探して

都丸

僕自身、じつは中2病が発症したくちです。いろいろあって精神的に荒れていたときに、好きな子に告白したらふられて大ショックを受けて鬱病みたいになっちゃって。中学2年生のときに胃潰瘍を患いました。

まわりにはかっこいいおとなもいないし、人生の見通しも立たない。だったら早いうちに不安材料を取りのぞこうと、生涯所得が保証されて福利厚生バッチリで有給がちゃんととれて与信に強い会社を目指し、中学校を卒業してすぐ社員育成学校に進んで、東京電力の社員になりました。群馬支店総合渋川総合制御所というところに配属されたのですが、思いのほか手応えもなくて、なんなんだろうと思っていたある日、直属の上司が突然職場に来なくなった。数日後、水力発電所の山の中で亡くなっているのが発見されました。

その人は37歳くらいで、仕事がすごくできて、子どもも二人いて、趣味は釣りで、いわゆる幸せな暮らしをしていた。でも、そんな上司が人生に絶望してしまった気持ちが、僕はすごく理解できた気がします。

日本人男性20代〜40代の死因ナンバーワンは自殺といわれます。これだけGDPが上がって成熟して豊かになった日本ですが、昔の産業構造のままの世界では、幸せの物差しが見いだせなくなっているんじゃないか。これでいいのか。悶々とした末に僕は2年間勉強して、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに通います。

そこで学んだのはコミュニティソリューションという領域です。地域づくりとか「自助、共助、公助」とか、共同作業をする昔の「結」とか、なにかあったらお金を出しあう「講」とか「座」といったものや、電子貨幣とかを勉強して、どうやったら世の中をよくできるのかを考える一方、サークルに入ってフラメンコも踊っていました。

大学生の特権を最大活用しつつ、社会人経験も活かしていろんな経営者に会いにいきました。ベンチャー企業やセミリターンした人たちにも憧れていたのですが、実際会ってみると、そういう人たちもじつはすごく孤独でつらそうにしているのが見えてきた。日本の社会はいまや成熟して経済成長も落ち着いているのに、価値観だけがバブル時代から抜け出せないまま、いろいろ悩んでいる人は多いんじゃないか。

その一方で、ボタンを押したら、しくみはわからないけど、いつでもほしいものが好きなだけ手に入ってしまう社会。そういうブラックボックスになっているシステムのこともちゃんと知りたいと思い始めました。

自然農に憧れ、自給自足をしている人たちのところに通ったこともあります。神社の軒下に寝泊まりしながら年収2万円で暮らしている人と出会い、僕もそんな人になろうとインドに渡って、ガンジス川で泳いで具合悪くなったりしながら、聖者さんを訪ねて3か月間修行みたいなことをやったり、帰国してから品川駅で野宿をしたり。とにかくいろいろやって、かなり極端に自分探しをしました。

あるときなどは「地球のために食料自給率100%にしよう!」と単純に青臭い発想で、いろんな大学とドリームチームを組んで、屋外で9日間のイベントを開催。結果として、食料自給率100%を目指しておきながら、なんと食料廃棄率2000%という、すさまじい大失敗をやらかしました。ビジネス的なスキルがまったくない学生たちだけでやったものだから、そんな結果を招いてしまったんですね。

理想だけじゃ何も変えられない。でも、中学生のころとか会社に勤め始めたころには出会えなかった、かっこいいおとなたちの存在を知ることはできた。そんな学生時代でした。そんなきっかけを若者に提供したいなと思いまして、26歳の卒業と同時に、結婚しつつ起業もしたわけです。

東京と、奥さんのいる沼田の2つに拠点を置き、月1回しか家族のもとに帰れないようなハードな毎日を送りました。1年のうちに子どもも生まれたのですが、産前産後の大変なときにまったく役に立たなかったと今でも言われています。

最初は売るものもなかったので、もっている電気工事士の資格を利用して知り合った社長の部屋にシャンデリアを取りつけたり、知り合いに頼まれてフローズン状態のマンゴージュースを売り歩いたり。そんななかで「おまえ面白いから、やるよ」となんと300万円をもらう機会があり、それを元手に「Lily」という女子大生向けのキャリアフリーマガジンを立ち上げました。

プロデュースや編集のノウハウも身についてきて、企業と一緒に子宮頸がんの予防キャンペーンをやったり、日本経済新聞社と経済知力を測る「日経TEST」を広めていく仕事をやったり。事業が成長していく中で、ボーカリストオーディションとかファッションショーとかゲーム業界とかの企画も手がけるようになりました。

ところが3.11が起きて、そういう仕事が全部なくなっちゃった。6か月間、仕事がまったく入りませんでした。当時は社員も抱えていたのでほんとに大変でした。結果、仕事をとるか家庭をとるか、というところまでいってしまったとき、そもそも人材育成とかそういう話をしても「自分の家庭がだめだったら、説得力ないじゃん」ということにやっと気づきました。

ちょうどそのころ防災啓発という仕事をもらい、それを機会に「Stand for mothers」という事業を立ち上げました。ママのためのソーシャルコミュニティなんですけど、政令指定都市すべてのママさんたちと一緒に子宮頸がんっていう、彼女たちに一番身近ながんの予防啓発活動をしていって、結果として広告換算で2億4000万円くらいの結果を出すことができたんです。

その結果を見た高崎の病院の先生から「高崎でもやってみないか」と声をかけていただき、イオンモール高崎で子育てイベントをやりました。

これが、僕が東京で起業して、すったもんだして、高崎に進出するまでのストーリーです。

立ち上がる力

都丸

僕がこんな感じで、行き当たりばったりで、長野で生まれて東京で大冒険をして失敗をしながら、地方に戻ってきた、その挑戦と失敗と立ち上がる力は、やっぱり、子どものころの愛着形成と自己肯定感だったと思っています。失敗しても大丈夫。そんな確信が僕の根底にあったから、ここまで来れたんじゃないかと思っています。

夢を描ける原体験をもって、直感に基づく挑戦の継続をしていって、結果として素敵な仲間と出会っていく。そういう人物をもっともっと群馬県から生み出せるようにしたい。その延長上には、きっと世界を担う人材が育っていくと確信しています。そのためにも人がちゃんと根づいていて、子育てしやすく活躍しやすい地域、子どもたちがすくすく健やかに育っていくような地域を目指して、今の活動をやっているという状況です。

東京の一極集中がいろいろな問題になっているいま、地方創生でいろいろなチャンスがあると思っています。国の予算をうまく最初の呼び水にすれば、地域の大きな流れをつくることができる時代です。まずは高崎で、つぎに利根沼田で、そういう地域づくりを進めていこう。生涯かかりそうな気がするんですけど、そんなことをやっていけたらなと思っています。

参加された皆さんから都丸さんへの質問

ーー

「ママプロぐんま」の活動では、たとえば保育園や幼稚園とか、行政との連携はあるのですか?

都丸

連携はしています。高崎市に必要な機能が2つあります。1つは子育て期に、ママさんたちが働く場や活躍する場がないこと。もう1つは、在宅育児中のゼロ歳、1歳、2歳のときに、地域と子連れで遊べるイベントがないこと。この2つをカバーする活動を担わせてもらっています。地域のママさんとの雑談を通じて、口コミで公的サービスの情報を提供することもあります。

あとは「ふるチャットカフェinたかさき」というYou Tubeライブで、高崎の子育てリソースを掘り起こす番組をつくって配信しています。ここでも、いろいろな保育園、行政、医療、発達障害をテーマに活躍している人などとの連携をすごく意識しています。

ーー

男性はどのようにこの取り組みに参加されていますか?

都丸

子育てサロンで僕らがやっている月1イベントの裏テーマは、パパをどうやって育児に巻き込むか。「イクメン講座やります」っていってもパパたちはぜったい来ません。だから、「最高の休日を過ごそう」というテーマで、パパが活躍する場をつくります。

たとえば流しそうめん大会。パパが竹を切り、割って、流しそうめんの台をつくってもらうんです。そうするとふだんママから「全然子育ての役に立たない」といわれていたパパの株が上がる。

子どもたちは自由に遊べて大喜びだし、ビールとか飲みながら一緒にパパ同士が作業することもできます。亭主関白みたいな人も、子どもたちと楽しく遊んでいるよそのパパたちを見ることで、育児に参加しているのもけっこう楽しいじゃんとか思ってくれて、だんだん育児に参加してくれるようになる。イベントには毎月30組100人くらいが来ていますが、4割はリピーターです。

テレワークの側面からは、中小企業経営者にアプローチしています。高崎にある会社って95%が中小企業なんですね。その経営者が意志を持って、勤怠が不安定になりがちなママに対して仕事をつくってくれないと、なかなか仕事量の確保は難しい。そこで「ママも活躍できるようになったほうが御社にとっても売上があがりますよ」と、イクメンの上司のイクボスを巻き込んでいこうとしています。

男性に対しては、この2つの方向から、母親が育てやすく活躍しやすい状況をつくっていけたらなと思っています。

ーー

学校に入る前の親御さんは関わりが多いと思うのですが、学校に入ってからの関わりはどうでしょうか?

都丸

たしかに、子どもが小学校に入るとプツリと断絶する感じはあります。ただ、もう1人産みたいと思える地域づくりもミッションの1つですから、1人目を産んで、うんざりして「2人目はもう嫌!」となるところを予防しないといけない。そうなると1人目を産んだばかりで孤立しがちなママは、やはり大きなターゲットです。首がすわって、ちょっと抱っこして出かけられる5か月めくらいから、2、3歳までが子育てでもっともきつい時期だと思います。子どもが虐待で殺されちゃう年齢でいちばん多いのが0歳児で、次が2歳児なんですね。まずはそこをカバーしようと。リソースは限られている部分があるので、集中と選択で特化するということです。

おわりに

都丸

Think Collegeワークショップのようすを見ていて、参加されたみなさんから主体性とか気持ちとかがすごく感じられてびっくりしました。今日のこの場が、なにか新しいモノがうまれる機会になれたらすごくいいなと思います。

これからは「個」が、なにかをつくりやすい時代になってきています。僕は僕なりのやり方でずっと継続していくので、高崎に来ることがあったら連絡いただければ、超おもしろい人との出会いや場所を紹介します。ぜひフェイスブックとかで検索してもらいながら、お互い楽しいことをしていきましょう。ありがとうございました。

講 師

kazuaki-tomaru
都丸一昭

一般社団法人ママプロぐんま 代表理事

1980年小諸市生まれ。小海町育ち。グンマーな輩は大体友だち。慶應義塾大学環境情報学部(SFC=湘南藤沢キャンパス)卒業。一般社団法人ママプロぐんま代表理事。 18歳で東京電力に就職した後、22歳でSFCに入学。卒業後に起業し、東京と沼田市の二拠点居住をしながら、群馬を中心に子育てしやすい地域づくりに取り組む。2013年、「ママの笑顔を増やすプロジェクトぐんま」を立ち上げ、「ママカレッジ」、「あそびば」、「ママアクション」等、子育て期のママの孤立を予防する活動を展開している。

ママプロぐんま