西武西武渋谷店

2016年10月19日(水) Think College Vol.48

古民家の「再生」と「活用」で、地域の誇りと産業を創る

講師:星野新治 (一般社団法人ノオト 地域プロジェクトディレクター / 株式会社NOTE 取締役)

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「田舎には何もない」
こんな言葉を耳にすることがあります。
果たして本当にそうでしょうか?
それって、じつは「田舎には、(都市部にあるものは)何もない」ということかも。
逆に、田舎には都市部で失われつつある、日本社会が捨て去ろうとしている豊かさがあります。
「田舎には都市部にないものがある」んです。
世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
古民家を再生しながら同時に地域に産業を創造していく宿泊施設や、
町全体で展開する城下町のホテルなど、
ユニークな事例のお話を聞きながら、
日本の地域の可能性について、一緒に考えてみませんか。

「建物が輝いていたとき」に戻す

星野

一般社団法人ノオトは、兵庫県の丹波篠山(たんばさきやま)に本拠地を置く民間の公益法人です。兵庫県は瀬戸内海から日本海まで縦に長くのびている県で、篠山はそのど真ん中。京都、大阪、神戸から1時間半ほどの距離にあります。

わたしたちのミッションは日本の「歴史的建築物」の価値を最大化して活用することです。それを収益化し、持続可能性をもって次世代に継承する。具体的にいえば、古民家の活用を核とした地域再生に取り組んでおり、そのための研究開発や実際の物件の開発、コンサルティングをおこなっています。

「歴史的建築物」に明確な定義はありませんが、ここでは現行の建築基準法が制定された昭和25年以前の建物と考えます。国内には約149万棟の歴史的建築物があり、うち1万5000棟は国宝や重要文化財、指定文化財あるいは登録文化財として国や行政によって手厚く保護されています。けれども、残りの147万棟あまりはいまだ手つかずのままです。

日本という国の人口は、江戸時代までは1000万〜3000万人ほどで推移していました。それが明治維新以降に急増し、1億3000万人に達して2004年にピークを迎えたのち、今は下り坂にさしかかっています。

人口が急増していた時代、歴史的建築物を語るうえで重要視されたのは、都市の拡大でした。昔ながらの街並みを開発から護ることや、文化財をいかにきちんと保存するかといったことが問題だったのです。しかし、人口減少の時代に入ると、こんどは街並みや集落の担い手がいなくなるため、それを内側からどのように守っていくかが課題となります。その解決策として、わたしたちは建築を活用しながら保存し、地域のビジネスや産業につなごうとしています。

日本を「グローバル」と「ローカル」という2つの世界観で見てみると、東京、渋谷というのはまさにグローバル。それはそれで日本にとっての重要なあるべき姿のひとつです。では、その対局にある「地方」すなわちローカルに、どんな価値を見いだせるか。わたしたちはそれを「豊かさ」であると考えます。自然の豊かさはもちろんのこと、これまで右肩上がりの成長のなかで日本社会が捨てようとしてきたものたち、たとえば畳、祭、里山といった日本人の暮らしそのものを豊かさととらえているのです。

古民家は、日本人の暮らしを入れる「箱」として、長い間わたしたちを支えてきました。気候やライフスタイルに合ったつくりになっていて、自然との対話やゆったりとした時間の流れがあり、その土地そのものに包み込まれたような安心感をもたらしてくれます。

わたしたちが建物を改修するときの基本的な考え方は、その建物が一番輝いていたときに戻すことです。建てられた当時のまま維持されてきた建物はほとんどなく、多くは時代の経過とともに床や壁、天井などが付け加えられてきています。昭和の時代に新建材の床や壁でカバーされたものが多いので、通常はそれらをはがして、当初の「建物が輝いていた時代」に戻していきます。ただし、キッチンやバス、トイレといった水まわりなどは、生活するうえでの利便性が重要と割り切って、最新のものに替えています。

実際に事業にとりかかってみると、ついているものをただはがしていく作業は、思っていたよりずっと安い費用ですむことがわかってきました。また、こうした空間は、たとえばレストランのオーナーがお店を開きたいとか、伝統工芸に関わる人が工房をもちたいとか、ITに関わる人であればサテライト方式で使いたいとか、クリエイティブな層に相性がよいこともわかってきました。

「宿泊施設」で集落を再生

星野

篠山は約400年の歴史をもつ城下町で、市内に400m四方の城跡があります。そこから北に少し上っていった谷筋の奥にあるのが「集落丸山」です。いわゆる日本の田舎らしい田舎といっていいでしょう。
わたしたちの最初の取り組みは、この集落丸山に宿泊施設をつくることでした。

写真で見ると、いかにも普通の民家という感じですが、じつは、このうちの3棟が宿泊施設。内部は多少現代風に過ごしやすく改修しつつ、雰囲気が味わえる空間になっています。

この宿泊施設の大きな特徴は、わたしたちノオトと丸山集落の方々が共同で経営していることです。経理やプロモーションなどをノオトが担当し、実際の接客は村の人にやってもらうシステムになっています。

夕食は、宿の隣にある蔵の中のフレンチレストランで、地元野菜をメインに山でとれた鹿肉の料理などを提供します。部屋でとる朝食は村のお婆ちゃんたちがつくります。メニューは、同じ集落内にオープンしたミシュラン星付きのお蕎麦屋さんが指導したもの。随所に少しだけプロの手を入れることで、田舎の良さを生かしながら少しだけ洗練されたサービスを実現しようとしています。

泊まっていただくとわかるのですが、朝、部屋で寝ているといきなりカチャッと鍵が開き、村のお婆ちゃんとおかみさんがノコノコとキッチンに入ってきて(チェックイン時にその旨確認はされます)、土鍋でごはんを炊きはじめます。寝ぼけまなこでごろごろしているうちに、いいにおいが漂ってきて、やがて「ご飯が炊けましたよ」と声がかかる。あるとき宿泊したフランス人は「妖精が入ってきた!」と表現していました。

この試みがはじまったころ、丸山集落では12軒のうち7軒が空き家でした。そして土地の約半分が耕作放棄地。空き家のうち3軒を宿泊施設として改修し、運営をスタートさせました。

営業を開始して2年ほどたったころ、そのうちの1軒に、もどって住みたいという話が持ち上がりました。持ち主の方が、建物を直していくうちに、これなら帰って住めるじゃないかと気がついたわけです。改修にかかった費用から、営業した2年分の改修費を差し引いた金額を支払ってもらうことで、話はまとまりました。

3軒が2軒になったのですから、営業的にはマイナスです。それでも人口は3人増えた。しかもそのご家族にはお子さんがいました。「子どもが集落に戻ってきた」という意味でも、集落再生にとってはよい結果につながったと思います。

現在、世帯数は5から6に増え、人口は19人から23人と2割増です。こうした事業活動を通して自然農を志向する方も入ってくるようになり、ボランティアによる黒豆栽培のイベントが開催されるなど、結果として耕作放棄地はゼロになりました。 空き家はあと4軒残っています。そのうちの2軒については、次の展開に向けての計画が進行しています。

空き家を借りるということ

星野

空き家は流動化しない、とよくいわれます。田舎の人に貸してくれというと、「使っているから」と断られる。仏壇があるから、荷物が置いてあるから、盆と正月に子どもが帰ってくるから等々、いい訳はいろいろですが、ほとんどの場合、それは本当の理由ではありません。

田舎は堅固なコミュニティが残っているため、万が一、貸した相手がなにかトラブルを起こすとコミュニティに迷惑がかかる。それを避けたいというのがまずひとつ。また、へたに売ったり貸したりすると、あの家は金に困っているのではないかなどと余計な詮索をされるということもあります。

こうした抵抗感をどうやって払拭するか。鍵となるのが「地域の合意」です。

わたしたちが地域に入っていってワークショップなどをおこない、「この建物は地域の活性化、地域の未来のために使う。このように使えば、このようなことが起きる」ということを、地域のみなさんに丁寧に伝えていく。空き家活用の検討を通して、地域そのもののあり方をイメージしてもらうのです。これがうまくいけば、「コミュニティのためになる」という理由のもと、これまでの抵抗感がうそのようにスムーズに空き家が提供されるようになります。

ここで、空き家を借りたり売ってもらったりする際の5つの手法をご紹介しましょう。

(1)転売方式
空き家の荷物を片づけ、補強や改修をして転売するという、いわば一般的なやり方です。
篠山には「町なみ屋なみ研究所」というNPOがあって、プロとボランティアの手で竹小舞や土壁などの改修もおこなわれています。

(2)サブリース
ノオトではこのパターンが一番多く、8年くらい前からとっている手法です。
空き家を10年ないし15年間無償で借り受け、必要な改修を施したのちに事業者にサブリースします。わたしたちが資金調達をして建物を改修し、それを貸し出すことで地域を活性化する。そこからあがる家賃は、改修などにかかった借財の返済にあてます。所有者さんにとっては、家賃収入こそありませんが、改修されて10年後には戻ってくる。しかもその間、建物の手入れや、周辺の雑草などの心配がないというメリットがあります。
10年経って、建物が戻ってきても住まない、使わないということであれば、あらためて今度は賃貸物件として借り直すことも考えます。

(3)地域運営方式
これは(2)の応用型で、前述の集落丸山がこの方式です。10年間無償で借り受けるのは同じですが、第三者に貸すのではなく、わたしたち自身が地域コミュニティと連携して運営します。コミュニティビジネスの創出です。集落丸山のほか、兵庫県北部の養父(やぶ)市にある養蚕農家でもこの手法をとっています。

(4)活用提案型指定管理方式
行政がもっている建物を、指定管理業者として請け負い、運営する方式です。
行政が歴史的建物を買い上げて改修・運営すると、入口にもぎりの方がいて、300円くらいの入場料を払って見学してもらう、いわゆる公開施設になるのが普通です。人件費や、敷地の草取りや維持管理費で、年間1000万円くらいの指定管理料が発生します。それをわたしたちは、公益的機能と同時に収益機能をもたせることによって、指定管理料ゼロで運営するのです。
基本的には自治体が所有者。このためコンペがあり、活用提案をして、審査が通るとそれに基づいて行政が改修工事をおこない、指定管理を出すという流れになります。その後はわたしたちが直接管理、あるいは一部をサブリースにして運営します。

一例が、朝来(あさご)市にある「旧木村酒造場EN」です。“日本のマチュピチュ”として知られる竹田城下にある築300年ほどの旧酒蔵を、ホテルとレストラン、公共的な交流センター、観光案内所、お土産屋さん、フレンチレストランなどが入る複合施設として活用しています。

このほか豊岡市の「オーベルジュ豊岡1925」も、市が所有する昭和の初期の銀行の建物を、カフェとスウィーツショップ、そしてホテルとして運用しています。

(5)ファンド方式
本来、わたしたちのやっていることは事業化し、ある程度収益が上がる仕組みにしなければ継続していけません。そこで最近トライしているのが、完全に民間事業として、行政による補助金をほとんど入れないという方式です。わたしたちがデベロッパーとなり、ファンドの資金をベースに、物件を買い取って改修し、運営事業者にサブリースします。
そのためには所有者がSPC(特別目的会社)を設立し、それに対してファンドが投資をします。地元の銀行も追随して融資をすることで、投資と融資を受ける。都会の商業施設などで普通におこなわれていることを、古民家で実現するという狙いもあります。
2015年10月、篠山にオープンした「篠山城下町ホテルNIPPONIA」は、この方式で実現しました。

城下町をひとつのホテルに見立てる

星野

それまでも、篠山では、サブリースなどの方式でジュエリーショップやアトリエ、工房を展開していました。ほかにも町の中にはワインや陶芸のショップや中国茶のカフェなどが点在しています。お城があり、昔の篠山藩の武家屋敷や歴史美術館などの見どころもあります。それぞれが、いわゆる日帰りの観光スポットだったのですが、「篠山城下町ホテルNIPPONIA」は、そこに宿を置くことでそれらを結びつけていこうというプロジェクトです。

このホテルは、城下町に点在するONAE(オナエ)、SAWASIRO(サワシロ)、NOZI(ノジ)、SION(シオン)の4棟に、2016年8月からSHOJI-AN(障子庵)が加わり、現在は5棟12室からなっています。

お客さまはまず、メイン棟のONAEにチェックイン。「今日のお部屋はこちらです」と案内される部屋は、だいたい2キロくらい離れています。車での送迎も可能ですが、ご希望があればお荷物だけお送りして、町を散策しながら移動していただくこともできます。

とにかく町に溶け込んで、住人になった気分でそぞろ歩き、ショップをのぞいたり、疲れたらカフェに寄り道してみたり……そういうふうに楽しんでいただきたいのです。

大きなホテルは1階にロビーがあって、カフェがあり、ギフトショップがあって、2階に宴会場があって、3階から上が客室に、最上階にバーがあって……といろいろな機能がひとつの建物に入っていますよね。それを町の中にばらまいてしまったというわけです。

たとえば結婚式をあげるなら、篠山城の大書院で挙式して、レストランで披露宴、宿泊もしていただいて、引き出物は市内にあるジュエリーショップの職人がつくる。町全体がひとつのホテルとして機能を果たします。

ちなみに丹波篠山というのは、松茸に丹波栗、丹波の黒豆などさまざまな農産物の産地として食文化も豊富な土地柄です。京都の文化の影響が大きく、お祭りの日になると、山車が町内を巡ります。今まで空き屋だった歴史的建築物の活用にプラスして、地元に残っている生活文化や食文化を表現し、それを訪れた人に楽しんでいただくしくみをホテルの中に組み込んでいきます。

さらにわたしたちがすごく大事にしているのは、「人」の部分です。集落丸山でも見てきたように、創造的な人材を呼び戻し、地元に新たな産業を生みだすことに結びつけていきたいと考えています。

ホテルのメイン棟の所有者は、この辺の大地主のお爺ちゃん。名家の末裔でいらっしゃるが、お年を召して、この建物を一人で守っていくのはそろそろ難しい、どうにかしたいなあとずっと思っていたそうです。

聞くと、不動産屋さんからはこれまでいろいろな話が持ち込まれたが、ずっと断り続けてきたといいます。ここをつぶして、建て売りの団地にするとか、老人養護施設に建て直したいとか、そういう話ばかりだったからです。お爺ちゃんとしては、やはり自分の守ってきた家を「そのまま残したい」という思いがある。だから売らずに頑張ってきた。そこにわたしたちが行って、建物を活かしてこういう事業をしたいのですというお話をしたところ、快く受け入れていただいたわけです。

お爺ちゃん一人で生活していた建物の中は、物がいっぱいで、中庭も草木は伸び放題荒れ放題。そこを片づけて改修し、宿泊施設やレストランのある棟に生まれ変わらせていきました。

入口を入るとフロントがあり、客室は昔の離れを活用しています。併設されたレストランでは、地元の食材をふんだんに用いた料理を提供し、宿泊客の夕食や朝食だけでなく、地元の方にもランチやディナーを楽しんでいただけるようになっています。

「ホテルNIPPONIA」は、2020年に向けて10棟30室に拡大していくのが目標です。さらにいくつか物件を開発して、もっと、本当に町に点在している感じが出せるところまでもっていきたいと思っています。

観光産業を構築する

星野

以上は、篠山城下町というひとつの町の例ですが、地方の産業としての「観光」を考えるならば、そこからどう広域に展開していくかが非常に大きな課題となります。北近畿エリアには、篠山があり、竹田城があり、養父市の養蚕農家があり、豊岡がある。海辺に立ち並ぶ舟屋で有名な伊根町も近く、京都、大阪、神戸からだいたい1時間圏内にあります。それらを包括した広域観光圏をつくっていくことが、次のステップです。また、全国各地から、一緒にやっていこうというお声もかかってきます。どの地域にも、それぞれ違う文化があり、土地柄もキャラクターも異なっています。どういう入口があり、どんな表現の仕方をしていくかというのはひとつひとつ探っていく必要があるでしょう。

そして、ノオトのこれから。これまでは一般社団法人でやってきたのですけれども、これをビジネスにしていくため、収益事業を担当する部署として株式会社を立ち上げています。
現在の日本は、国土の5%に人口の70%以上が住んでいる状態です。15%が過疎化して耕作放棄に悩んでいるという状況があります。そこに古民家とか歴史地区とか田舎を専門とするデベロッパーがいてもいいのではないか、という思いもあります。

イタリアなどには、町全体が観光地になっているところもたくさんあります。日本では古都といわれる京都といえども普通の町にすぎません。これからの観光地は、町ぐるみで日本の暮らしや文化が体験できるようにしていきたい。国内にある歴史的建築物147万棟のうち、20%くらいは活用できる可能性を秘めています。その30万棟のうち10%くらいは民間資本で収益を見込めるのではないかと思っています。

古民家は地域のお荷物といわれることもあります。しかし、わたしたちにとって古民家は日本の未来をつくる重要な資産。これをどう使って産業をつくるか、どう未来につなげていくかを考えながら、ノオトの活動を続けています

講 師

shinji-hoshino
星野新治

一般社団法人ノオト 地域プロジェクトディレクター / 株式会社NOTE 取締役

新潟県出身。建設コンサルタントとして地域開発・公園設計などに携わった後、研究員として長岡造形大学に勤務。登録ランドスケープアーキテクト(RLA) として中越大震災後の景観保全計画の作成や公共施設のランドスケープデザインなどを担当。2008年にブランディング・コンサルティング会社CIA Inc.へ参画。ブランド・マネージャーとして、コミュニティ型商業施設開発や飲食・食品会社などのプロジェクトを担当。2013年に退社後、アメリカ・ ポートランド短期留学を経て一般社団法人ノオトに理事として参画し、現職に至る。現在は、篠山城下町ホテルNIPPONIAや豊岡市地域プロデューサーなど、古民家などの地域資源を活かした活性化プロジェクトに取り組んでいる。

一般社団法人ノオト