西武西武渋谷店

2019年8月1日(木) Think College Vol.59

「ローカル×ローカル」で広がる視点
〜南伊豆の実践から、全国、世界の先輩を訪ねてます〜

講師:伊集院一徹(一般社団法人南伊豆編集室 代表理事 / イラストレーター)
   山之内匠(南伊豆公舎株式会社 代表 / ミュージシャン)

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世の中の課題に取り組む人のお話を聴いて、一緒に考える講座シリーズ「Think College」。
今回のテーマはズバリ、「ローカル」です。
メディアや空間づくりから、海辺の小さな町の町おこしに尽力する人たちがいます。
試行錯誤や実験的な試みを通して浮かんできたのは、「地域創生」っていったい何?という疑問。
答えはもちろん、まだありません。でも、それはきっと人とのつながりの中にあるはず。
そんな思いで現場に身をおく人たちの話を聞きながら、
これからの「ローカル」のあり方について、一緒に考えてみませんか。

「南伊豆新聞」と「南伊豆くらし図鑑」

伊集院

伊集院一徹と申します。鹿児島県出身ですが、去年(2018年)の4月にひょんなことから縁もゆかりもまったくない静岡県南伊豆町に移り住みました。いまは「地域おこし協力隊」の制度を活用して、南伊豆の魅力を発信する仕事をしています。

それまでは東京の出版社で5年ほど、編集の仕事をやっていました。人の話を聞いて、それを記事にするという仕事です。絵も描いています。きょう皆さんのお手元にも配っている紙版の南伊豆新聞の見出しも私が描いています。

そもそも皆さんは静岡県の南伊豆町をご存じでしょうか。特急「踊り子」号に乗れば、最短で東京から2時間50分くらいのところにある町です。海も山も豊かで、もともと温泉街として栄えていました。ヒリゾ浜というところがあって、シュノーケリングスポットとして有名です。沖縄に負けない透明度といわれる海には、夏になると観光客がたくさん訪れます。弓ヶ浜という海水浴場もあって、家族連れなどが訪れますが、冬は閑散としています。

人口のグラフをご覧ください。高齢化率は44%、若い人も出て行っているので人口はどんどん減っていて、僕が4月に来たときはおよそ8,400人だったのですけれど、今は8,200人くらい。ゆるやかに人がいなくなっています。

僕はもともと、いわゆる地方で暮らす豊かな暮らしみたいなものにはまったく興味がありませんでした。ではなぜ移住したかというと、僕が出版社で働いている時に、シブヤ大学というプラットホームで知り合った友人からのご縁です。「一徹、ちょっと南伊豆でローカルメディアの立ち上げを協力してよ」という話があったんです。

一度は断ったのですけれど、「この人と働きたいな」と思っていた人からの誘いだったので、きっと楽しいかもしれないと思いました。これまでの仕事、イラストと編集が全部活かせるに違いない。東京で働くのも楽しかったけれど、仕事で東京にも行けるし、ちょうどいい距離感なのでなはいか、そして、ここで頑張ればその経験がいつか故郷の鹿児島でも活きるかもしれないといったイメージがわいたときに、南伊豆町での暮らしが楽しそうに思えてきたのです。

南伊豆ファンをつくる

伊集院

そうして今、僕がやっているのは「南伊豆新聞」というWebメディアと、「南伊豆くらし図鑑」という暮らし体験プログラムの二つです。

「南伊豆新聞」には、南伊豆のいろいろな情報を載せているのですが、それが飲食店だったら、おいしいメニューを紹介するだけではなく、店主がどうしてこの店をつくったのかといった話を載せています。高校生の頃の写真から、じつは修業時代は池袋で働いていたこと、ゴルフが趣味であること、お子さんが生まれてそれをきっかけに南伊豆に移住したこととか、よくあるグルメサイトでは登場しないようなストーリー、つまりお店のサービスではなく人物に焦点を当てて、お店に入ったら会話が生まれるような新聞をつくりたいのです。

それから「南伊豆くらし図鑑」。たとえば、旅行とか観光という言葉を聞いて皆さんはどういうものを想像しますか。おいしいものを食べたり、建物を見たり、温泉へ入って、旅館へ泊って、そういう旅は僕も大好きなのですけれど、そうして訪れた町にまた行きたいと思うかどうか、それはわからないと思っていて。

最近僕の好きな場所のひとつが鎌倉なんですが、そこには柴田君という人がいて、その人がいるから面白いと思っているのです。鎌倉に行けば柴田君を通して、いろいろなお店を紹介してもらえます。そして、ゲストハウスやカフェのオーナーさんたちと一気に友だちになれる。柴田君を通して町の人たちと関係性が生まれていく。鎌倉に住んでいるわけでも、通勤しているわけでもないけど、何かつながっている感じ。これは、ただ行ってお金を落として帰ってくるのとはちょっと違う感覚だと思うのです。

その延長上にある「南伊豆くらし図鑑」は、1対1でその人の日常にちょっとお邪魔する、ショートホームステイみたいな暮らし体験プログラムです。

伊勢エビ漁体験では、朝の4時に集合し、平山さんという漁師さんといっしょに出港して伊勢エビの網を引き上げます。網から伊勢エビを外す作業も漁師さんや地元の人たちといっしょにやります。そのあとにバーベキューをするんです。

限界集落の吉田村の吉田さんを訪ねるプログラムもあります。40年前にこの土地に惚れ込んで移住し、いま民宿を経営されている吉田さんの半生をうかがうというもので、体験というよりインタビューが8割くらいを占めます。

お米農家の中村大軌さんのところでは、いっしょに田んぼの作業をして、釜でお米を焚いて、中村さんのお米を買って帰ります。

僕がやりたいのは「南伊豆にまた来たい」と思ってもらえるような交流の入り口をつくることです。しょっちゅう南伊豆に行っているわけではないけれど何かつながっている、そんな感覚ができたらいいと思っています。いわゆる「観光以上、移住未満」とか「関係人口を増やす」といった取り組みですね。

そんなことを1年くらいやってきたのですが、ちょっと壁にぶち当たって、あとで紹介する「ローカル×ローカル」という新しいプロジェクトを考えるようになりました。

「giFt」でギフトを

山之内

南伊豆から来た山之内匠です。両親の仕事で引っ越してきて以来18年間、南伊豆町という町に住んでいます。

20代のころからずっとミュージシャンとして活動していて、年間100本以上のライブをしながら日本中を回っていました。30代になり、何か別のチャレンジをしてみたいと漠然と思っているときに、あるプロジェクトで集まった人たちと「何かひとつの居場所をつくろう」という話が持ち上がりました。

お店にしようか、コミュニティにしようか、銭湯をつくってもいいよね、といろいろなアイデアが出た中で、商店街に何かをつくろうという話にまとまった。それで「giFt(ギフト)」という名前のスペースをつくることになり、商店街の中ほどに二階建ての一軒家を借りました。去年僕が会社を興して、その会社が主体になって運営しています。

最初に十数人の立ち上げメンバーがいて、その仲間のことを「バディ」と呼んでいます。一徹君もバディです。そのバディたちが「バディ費」、いわゆる会費ですね、それを出し合って、その家自体の家賃や光熱費を回しています。

二階にはバディが自由に過ごせるシェアリングスペースを設け、一階がお店のような場になっています。といっても、僕や一徹君がいるときだけオープンして、お客さんが来たら「コーヒーを淹れたんだけどいっしょに飲みますか」なんて声をかけたりする不思議な状態です。よく、何のお店なのと聞かれるのですが、今日はかき氷屋ですとか、今日は誰かのお話を聞くイベントやります、今日はライブです……と、そのときそのときで答えが違うんです。

giFtという場をつくるにあたって、たとえば入場料とか飲食代も、値段設定をして料金を取るのではなくて、“ギフト”というかたちでやってみようということになりました。つまり、投げ銭だったり、おいしいポテトサラダをつくってライブにもってきてくれたりしてもよし、それぞれギフトという形で、自分の得意な表現を使ったり、それが難しければお金でもいいよということです。

じゃあどうやって稼いでいるのかというと、じつは僕はほかにも仕事をしていて、そこに自分の生活基盤を持っている状態でやっています。

いま、和綿という綿花を育てている知り合いがいて、その知り合いが、みんなでおしゃべりをしながら綿紡ぎをするワークショップを通算11回ぐらいやっています。「つむつむ会」というのですけれど、彼女が言うには、すごく地味な会だからわざわざお金をとってやることもないし、場所にお金をかけることもない、ゆっくり地味にやっていたいということが、giFtにすごく向いている気がします。ほかにも、ダンス教室だったり、僕がやるライブの企画だったり、一徹君が鎌倉の柴田君を招いてトークイベントをやったりとか、いろいろなことをやっています。可能性はいくらでもあるので、giFtというスペースに限られたことではなくて、南伊豆全体のフィールドにつながっていくような面白いことができたらいいなと思いながら活動しています。

「地域活性」ってどういうこと?

伊集院

先ほどお話ししたように、僕は2つのメディアをやっています。匠君のgiFtとも組んで仕事をしているのですが、なかなか人は来ないし、魅力を発信する仕事で壁にぶち当たったときに、「ローカル×ローカル」というイベントシリーズを企画することにしました。

その出発点はある疑問から生まれました。それは、「そもそも地域活性や地方創生、地域おこしとはどういう状態なのか?」。

観光地ができて来るお客さんが増えるということなのか。いや、たくさん人が集ったからといってそれでどうなのとか。移住者が増えることも一見ハッピーなのですけれど、その人たちの仕事先まで保障できるわけではありません。

何をすれば地域がおこされた状態になるのだろう。そして僕ができることは何? そんな思いから、ローカルで活躍する先輩たちを訪ねて、そこで学んできたことを報告したいと思うようになりました。

まず1回目は、徳島県神山町で活動されている西村佳哲さんを訪ねました。インタビューのテーマは「人が増えることって、ほんとに豊かなの?

なぜこれをテーマにしたかというと、たとえば僕がどれだけ魅力を発信しても、マラソン大会があれば、一日でたくさんのお金が落ちて宿も潤うし、ぱっと見、経済も活性化する。それに対して、僕がやっているのは、少しずつ人を呼んで、小さな魅力を発信することです。マラソン大会で動かせることと、自分がやっていることを比べると、自分がやっていることはすごく微力だと感じたときに、西村さんの活動を思い出したのです。そこで、この問いをぶつけて、その学びを参加者の方々とシェアしました。

第2回目は、神奈川県にある真鶴出版さん。そこで深めたかったテーマは「効率化って、ほんとにいいの?

いまはネットさえあればいろいろな情報が発信できる時代なのだけど、いろいろな人に広げることがいいことなのだろうか。ただ人をたくさん呼べばいいのか、疑問に思っているところに真鶴出版に出会いました。この会社は、街のフリーペーパーや街歩きのマップをつくる出版社でもあり、ゲストハウスでもあります。宿泊できるのは2組で、1時間2時間、お客さんによっては半日もかけて、ひたすら真鶴を案内するそうなんです。すごく地道で非効率にも思えますが、真鶴出版がハブになって移住する人が増えたり、若者が集まってきたり、結果として情報が広く届いているような気がしたので、この会社をやっている川口瞬さん・來住友美さんご夫妻に話を聞きました。

第3回は、島根県大田市大森町にある700人の町の、群言堂で広報紙をつくっている三浦類さんを訪ねました。深めたいテーマは、「文化って、どうつくられる?

群言堂は、昔は使われていたけれど、いまは時代とともに廃れていった衣服や雑貨を、新しくデザインして魅力的な商品として販売しています。松葉大吉さんと登美さんというご夫婦がやっているのですけれど、いま創業30年、全国に30店のアパレル店舗を出店していて、そのユニークな広報誌を独りで担っている三浦君を取材しました。

質疑応答から:地域共同体の仲間になるには

ーー

地元の人と仲良くなるとか、信頼関係を築くためのコツとか方法みたいなものはありますか?

伊集院

たとえば僕は、ローカルメディアの「南伊豆新聞」で、お店の取材をさせてもらいます。そこで「また来ますね」といったら、必ず行くことにしています。どんな小さな約束でもなるべく守るようにします。

山之内

僕が心がけていることは、いっしょに作業をしたりする機会を大事にすること。昔から日本では、隣のわらぶき屋根が壊れたら、みんなでふきかえたりする習慣がありました。そういうものに自分たちも参加して、落ち葉を集めたり、山を掃除したり、作業をしながら地域の人たちといっしょに過ごす。それだけで、関係性がめっきりほぐれることがよくあります。「おう、兄ちゃん、見た目の割にはオマエちゃんとできるじゃねえか」と声をかけてもらえるようになったり、いっしょに何かをやるという行為は、近づくために役立っている気がします。

僕には音楽をやっている知り合いも多いので、毎月10回くらいは「giFtでライブをやりたい」なんていう電話がかかってきます。その中で、うちの町やgiFtにテイストが合いそうな、わりと静かめな人たちに来てもらうようにしています。

それでも商店街の方からうるさいと言われることもあるんです。かたや同じ商店街で最高に楽しかったと言ってくれる人もいる。自分か足りないのか、街がついていけないのかわかりませんが、試行錯誤の連続です。どちらにしても、寿司屋のおやじに挨拶に行くとか、八百屋のおばちゃんとちゃんと話すとか、そこには暮らしている人と、丁寧に付き合っていかなければないけないと思います。

伊集院

ひとこと通しているか通していないかで雲泥の差ですよね。

山之内

それはもう怖いくらい。でも、何百人もいる中で、どこまで声をかければいいのか。隣3軒なのか、隣6軒なのか迷います。一人漏れたりすると大変なことになるので。

伊集院

「俺は聞いてない」というのがいちばん怖い。関係性をもう一押し構築したいところですね。

山之内

そうですね。一杯飲みにいくほうがいいなと思ったりします。「飲みに行こう」って声をかけてもらえることもあり、それだけでもすごくありがたいですね。地域共同体のなかでいちおう仲間として見てくれている部分があるってことですから。

伊集院

夜の南伊豆は、真っ暗です。だから、電気が9時くらいまで、灯りがついていて、こちらとしてはイベントをやっていて、楽しい空間をつくっているつもりなのだけど、その賑わっていることが逆に商店街の人からしたら、あれはいったいなんだ? ということにもなりますよね。

山之内

それを知ってもらうにはここに来てもらえばいいんですが、それがとても大変です。興味を示して、のぞきに来てくれる人はいいんです。でも、これまで無関心だった魚屋のおやじさんが来てくれるかというのは難しい。でも、そういう人が来てくれたら、自分の中では成功だと思うので、頑張っていきたいと思います。

僕の個人的な感情なのですけれど、地域の共同体の中で、giFtというもの自体がなくなってもいいくらいに人が来てくれるようになったり、giFtでやっていることを新しいほかのカフェでやったり、giFtに集まって遊んでいた人たちが別の場に集まったり、そういうことが起きるようになって、それとともに充実した商店街の形ができてくるとしたら、自分たちの役目はなくなるのかもしれません。もしかしたらgiFtがなくなるくらい街がにぎわったら、本望なのではないかと思っています。

伊集院

そうかもしれないですね。今日はどうもありがとうございました。
最後に一言。「南伊豆くらし図鑑」の体験者を絶賛募集中です。FacebookInstagramなどで僕を見つけてもらえたらすぐアテンドしますので、よろしくお願いします。

講 師

ittetsu-ijuin
伊集院 一徹

一般社団法人南伊豆編集室 代表理事 / イラストレーター

1988年生まれ、鹿児島県出身。「南伊豆新聞」と「南伊豆くらし図鑑」の編集長。東京の教育系出版社で編集者として勤務。退職後、2018年4月から静岡県南伊豆町の地域おこし協力隊・イラストレーターとして活動。南伊豆と東京を行き来しながら南伊豆の魅力を発信しています。2019年から「ローカル×ローカル」プロジェクトを実施。

takumi-yamanouchi
山之内 匠

南伊豆公舎株式会社 代表 / ミュージシャン

1984年生まれ、東京都出身。南伊豆公舎代表。「天草(tengusa)」のベーシスト。17歳から家族で南伊豆に移住。全国各地でミュージシャン活動をする他、大工や音響管理、物々交換や恩送りで成り立つ空間「giFt」の運営などを行なっています。