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2020年1月29日(水) Think College Vol.61

だれもが一緒に遊べるものを、だれかと一緒に作る

講師:濱田隆史(ギフトテンインダストリ株式会社 代表取締役)

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架空の文明が残したヘンテコな形の遺物を手探りして、それが何かを空想し、当てっこする。
……そんな楽しいコミュニケーションゲームがあります。
触覚を頼りにするので、視覚障害を持っている人でも誰でも、いろんな人が一緒に遊ぶことができます。

そんなゲームを、アイデアから制作、販売まで、小さな会社で全部やる。
実現するには「手作り以上、大量製品未満」というサイズ感が重要な鍵となりました。
でも、少ないリソースで生産するには、誰かの力を借りる必要があります。

クリエイティブなことを、誰かといっしょにやっていきたい。
そのために何を考え、どこに工夫をこらせばよいのでしょう。
小さく始めるものづくりを、一緒に考えてみませんか。

『ダッタカモ文明の謎』

濱田

これは『ダッタカモ文明の謎』というゲームです。

小さな巾着に陶器のコマが12個入っています。
数人のグループで遊ぶのですが、最初に「博士」になった人が巾着の中のコマを一つ選び、それが謎の古代文明で何に使われていたものか空想します。
残りのメンバーは博士に質問したり、ヒントをもらったりしながらそのコマの正体を当てる、というコミュニケーションゲームです。

ぼくはこのゲームを2015年に、視覚障害の人もいっしょに遊べるというコンセプトで作りました。
今日は実際に遊んだりしながら、なぜ、どうやって作ることになったのか。このゲームをめぐるお話をしたいと思います。

まず、自己紹介です。ぼくは自分のことをゲームデザイナーと名乗って活動しています。
ThinkCollegeの受講者には、なにか新しいことを始めたいという方が多いと聞いていますので、そういう方にとって、この講座が何か一つやってみようというきっかけになれば嬉しいです。

ぼくが作っているのは、オリジナルのボードゲームです。だいたい年に2個くらい新作を発表していますが、そのため年に5個くらい試作しています。
ボードゲームのほかに、Nintendo Switchなど、いわゆるデジタルゲームの制作もやっています。ボードゲームだけで稼げるようになりたかったのですが、なかなか厳しくて、今はデジタルゲームのほうが売上のメインです。いわゆるインディーゲーム開発者というやつですね。少人数でゲームをつくり、ぼく自身企画もやるし、プログラムもやっています。

ゲームデザイナーの日常って?

濱田

「ギフトテンインダストリ」は、ぼくともう一人の小さい会社です。プロジェクトに応じてフリーランスの方と協力しながら、だいたい4、5人体制で作るのですが、構想を考えている時などは2人に戻ってじわじわ進めます。ぼくが企画とプログラムをやり、もう一人には絵を担当してもらっています。

毎朝10時くらいに近くのカフェに行って2時間くらい、今日やることやアイデアを考えます。小さなオフィスを借りているので、午後にそこで作業をして、6時くらいになったら家に帰ります。
子どもが二人いるので、帰る途中に保育園へ寄って二人をピックアップしてから帰ることもあります。お風呂に一緒に入ったりしたあと、必要なときはもう一度会社に出る。 忙しくない時はそのまま寝てしまいます。

今はこんな風な生活で、とてもいいバランスで生活ができていると感じています。

もう一人の正社員の彼は愛知県に住んでいて、一日に1回、電話ミーティングをして仕事を進めます。
電話と同期できるお絵かきツールを使っています。ぼくも彼もタブレットを持っていて、ぼくが描けば彼のところにも反映されるので、おしゃべりしながらアイデアやイメージを共有できてすごく便利です。
彼はアーティスト活動のため、何か月も海外に行ったりすることもあるのですが、離れていても意外になんとかなるものだなあと思います。

一人で社会に飛びだした!

濱田

ぼくは美術大学を卒業して、わりと大きめのゲーム会社に入り、5年くらい勤めました。
企画職という役職で、役割は主に仕様書を書くこととレベルデザインを考えることの二つ。マリオのようなゲームだったら、ここに敵を置こうとか台を置こうとか考えるのがレベルデザインという仕事です。

この仕事はプログラマーやデザイナーとも話をするので、それぞれの知識を持っていないとダメなんですね。
5年間ぐらい働いているうちに、サウンドはともかく、絵とプログラムはけっこうできるようになりました。

ただ、自分のゲームを作ることはなかなかできませんでした。
企画職ですから企画書も出すんですが、なかなか新しいアイディアを通すのは難しいものです。
自由に色々とできて、いい会社ではあったんですが、正直なところ、いつも何か不安を感じていました。
会社に守られてぬるま湯みたいなところにいるけれど、一人になったときにこれで生活ができるのかなと。

それで29歳くらいのとき、まだ20代だしちょっと試してみるか、と会社を辞めてみることにしました。

といっても、ぼくはそもそも開発職なので開発しか知りません。
外部とのつながりもないのに、いきなり辞めてしまったのです。

……で、辞めてから何ができるのかを考えてみることにしました。

美術大学の学生時代に買った陶芸窯と電動ろくろがあったので、陶芸だったらできるかなと、と思い、とあえず自分のできるところから始めてみました。

最初に始めたのは、陶器のボタンを作って路上で売ることでした。

場所のない東京でやるのだから大きな在庫は抱えられない。
小さくて、それなりの値段で売れるのは何か。その答えが陶器のボタンだったんですね。

会社にいたころ、ぼくは3Dのデザイナーともやり取りをしていました。
そこで得た知識をもとに、人間の手ではとても作れないような形を3Dプリンターで作り、陶芸窯で焼いてボタンをつくったんです。

週末に「手づくり市」などで商品を並べ、3か月ぐらい頑張りました。
ごくたまにですが一日に5万円とか売れることもあったんです。
金額としては全然生活できるレベルではないのですけれど、月々10万円くらい稼げたのは、自分にとって自信になりました。

会社員だったころのぼくは、自分を職人気質だと思っていました。
けれど、ボタンって、穴がありますよね。
ストローみたいなものをさして穴を開けていくのですけれど、ただひたすら何百個もボタンの穴を開け続けていたら、だんだんつらくなってきたんです。
そこで、自分が職人気質というのは幻想だったのかもしれないと気がついて、結局ボタン作りはやめました。

最初のゲームで大赤字

濱田

そこでゲームを作る会社を立ち上げることになったわけですが、じつは『ダッタカモ文明の謎』の前に、同じコンセプトでもう一つ、別のゲームをつくっています。
音を使って遊ぶゲームです。
これは壺のかたちをしていて、振ると音が鳴り、音の違いを使って遊びます。

これは会社員の時に温めていたアイデアで、視覚障害の人と遊べるゲームを企画していたのですけれど、当時ぼくが扱っていたのはDSやWiiでした。
DSは振動機能がついてないし、サウンドも右か左かぐらいか使い分けられません。 Wiiのリモコンは、いちおう振動機能は入っているのですけれど、表現を広げるのには力不足で、なかなか企画がまとまらずにいました。

そもそも、このコンセプトでは企画が通りません。
日本には何人くらい視覚障害者がいるのかとか、何人くらい買うのかとか、それでは商売にならないね。

それでも、音と手触りだけでできるゲームの企画書を5つくらい作りました。
その一つが、この壺のゲームの原型になりました。
「音当て神経衰弱」といいまして、紙コップみたいなものにいろいろな音が鳴るものが入っていて、振って同じ中身を当てるんです。

このゲームで実際に視覚障害のお子さんたちと一緒に遊んでみて、喜んでもらえたので、よし製造だ、と決断しました。

でも、どうやって作ったらいいかわからない。
人に紹介してもらって、金型などを作って製造をしたのですが、すごい赤字になってしまったんですよね。

その反省を生かして、作ったのが、今回の『ダッタカモ文明の謎』です。

『ダッタカモ文明の謎』、ふたたび

ーー

一か月くらい前にたまたまこの『ダッタカモ文明』で遊んだことがありました。

濱田

おー、激レアですね!

ーー

そのときは視覚障害ではなく聴覚障害の方と一緒で、手話の勉強会の中で『ダッタカモ文明』が出てきて、それを触りながら、手話や、UDトークという文字表示アプリを使いながら遊んだんです。

そこで、例えば他言語を話す外国の方と遊んでも、私たちのような日本人的感覚ではこうだけれど、外国の方だとこんな感じなんだなとか、すごくいろいろな発見がありそうで、面白いだろうな、と。
いろいろな方とこれを使って遊びたいなと思ったんです。

濱田

そういう意味では、小さい子どもと遊ぶと面白いですよ。
うちの子が3歳か4歳ぐらいのときだったかな? 博士の役が回ってくると、まわりのみんなが「博士、博士」って敬語で話しかけるじゃないですか。立場が逆転するというか、ギャップというか、年齢や能力、言語の違いを飛び越えるという意味で、こういうゲームってすごくいいんじゃないかと思います。

ロジェ・カイヨワっていうフランスの社会学者が「遊び」をいくつかに分類して整理しています。その一つ「なりきる」という要素が楽しめるのもこのゲームのいいところだと思います。

では、ちょっと遊んでみましょうか。

さて、一通り遊んでいただいたところで、この『ダッタカモ文明の謎』というゲームの具体的な製造方法をご紹介しましょう。

巾着に12種類ものコマが入っていて、いきなり100セット作ってくださいといわれたら、すごく大変そうだと思われるでしょう? 

ただ、大変な作業といっても、工夫をすればいろいろ解決策があります。

ふだんは「福祉作業所」といって働くときに少し困難をともなう方などに組み立て作業などの作業をしていただける施設が自治体にあり、そこと協力してつくることが多いのです。
このときは福祉作業所ではなく、さらに重度の麻痺などをもっている方のリハビリ施設にお願いをしました。

プレイをしてもらえばわかると思うのですけれど、このゲームはコマの形が、一個一個、違うことが重要です。ふつう、生産では完全に同じ形が求められますが、このゲームでは手作りで形が多少違っていても問題になりません。

また利用者さんごとにつくれるコマの形も検討しました。
たとえば、手の動きに制限がある人には、こうやってねじるみたいな感じでできる形のコマを。
もっと動かない人は、丸い粘土をぐっと押し込みモチ型にしてもらう、とか。ずっと同じものをつくっていると飽きてしまうので、ときには自由型というのも混ぜてもらいました。

ぼくが、モノをつくっていて嬉しいなと思うときは、自分のつくったものでいろいろな人が遊んでくれるときです。
もちろん、お金も入ったら嬉しいですけど、一番は社会とのつながりができることかなと思っているのです。

このリハビリ施設の人も、社会とのつながりができれば嬉しいことじゃないかなと思っていましたし、ぼくらも少額ながらも彼らにお金を出すことができた。
その施設では、このゲームが初めての「仕事」になったそうです。

コマを入れる巾着は、布製品をつくるのが得意な福祉作業所にお願いしました。
パーツごとに複数の施設で分業して作っています。

作業所ごとに得意な作業が違うので、利用するときには調べてみることをおすすめします。
福祉作業所同士のネットワークがあって、相談に行くと得意な作業書を教えてくれることもあります。複数の福祉作業所を組み合わせることで小ロット製造に適した手作りの生産体制が整います。 皆さん、何かつくりたいものがあったら、まずどこかの作業所に行ってみるといいですよ。
きっと親切に話を聞いてもらえると思います。

「10」……小ロット製造の意味を考える

濱田

そもそも、ぼくらの「ギフトテンインダストリ」というのは、小ロット製造を目指した会社です。
「テン」の由来は、最初に作った壺のゲームの数が、10個だったから。

1点ものと大量生産の中間ぐらいの製造をやりたいなと思っていまして、その数が10個だと思うのです。10個未満だったら完全な手作りでもなんとかなる。
でもそれ以上だとけっこう大変です。
だからほかの人の手も借りつつやる。

「テン」にはそういう小ロットのものを作りたいという思いが込められています。
ギフトとインダストリのあいだの「テン」なんですよね。

一見、接点がないように感じるかもしれませんが、ぼくは、陶芸とインディ―ゲーム制作ってすごく似ているんじゃないかと思っています。

たとえば、ここにあるプロジェクターを一人で1から企画して作って売るなんて無理な話です。
企画はできたとしても、製造は中国で金型を作り、販売は量販店に営業して……と考えるとかなり大変です。

それに比べて陶芸って、企画から製造・販売まで一人でできる、すごくレアな職業なんです。
インディーゲームもそうです。
企画から制作・開発、そして販売まで自分でできる。

自分に向いている仕事を見つけるとき、過去自分がやってきたものの共通点で探すのがいいのではないかと思っています。

陶芸とインディーゲーム制作の共通点というのは、一人でできるところです。
ぼくはバックパック旅行も好きなんですね。
バックパッカーのいいところも、自分自身でやるということ。
結局、ぼくはもしかしたら自分自身でやることが好きなのではないか、そこが自分のコアな部分なのかな、と最近思います。
皆さんご自身の過去を振り返ってみて続けられているものってありますか。

続けられるものこそ素質があるものだと思います。
ただ、ビジネスの場合、稼げないとなかなか続けられないですね。
稼げるということは、ほかの人からも欲しいと思われ、ほかの人とくらべて価値が高いということです。

もし何か始めようとしている方は、いままで続けられていることで、稼げそうなものを見つけるのがいいのではないかと思います。

講 師

takashi-hamada
濱田 隆史

ギフトテンインダストリ株式会社 代表取締役

1984年生まれ。ボードゲームとデジタルゲームの開発者。美術大学卒業後、ゲーム制作会社に企画として就職。独立後は、主にゲームデザインとプログラムを担当。2015年にギフトテンインダストリ株式会社を設立。小規模ながら、企画から開発・販売を一貫して行っている。趣味は陶芸と旅行。

https://gift10.co.jp/