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パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム

ラグジュアリーなパリのフード事情

パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム

ラグジュアリーなパリのフード事情

昔からグルメの街として名高い、美食の都 パリ。
パリ在住の食のジャーナリストとして活動する伊藤文さんが、世界中の食通をうならせる
数々の美食の中から選りすぐりのものをピックアップして、毎回お伝えいたします。

パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム

コロンビア出身の注目の若手シェフが手掛けるレストラン「フィンカ」。
自国のルーツを鮮やかに魅せる、物語性のある料理で話題に。

2026年3月3日(火)

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南米コロンビア出身、弱冠28歳の若手料理人、エステバン・サラザールさん。フランスの人気料理番組『トップ・シェフ』への出演で一躍注目を集めた。いまパリで展開する、オリジンへと遡る彼の料理の魅力とは。


南米コロンビア出身、弱冠28歳の若手料理人、エステバン・サラザールさんとレストランの外観


エステバン・サラザールさんは、南米コロンビア出身。幼い頃から料理に興味を持って、19歳で渡米。そののち、世界のあちこちで料理の経験を積んできたといいます。フランスでは中央高地の西側コレーズ県のビストロで地元の素材を使ったモダンなビストロ料理で評価され、ミシュランガイドのビブ・グルマンを獲得していたという経歴もありました。フランスの人気料理番組『トップ・シェフ』に昨年出場したことから、グローブトロッター型のシェフとして注目を浴びて、創造性とストーリー性のあるシェフとして話題になったのです。


照明が落ち着いた雰囲気を演出するレストランとシェフたちがキッチンで調理する風景


『トップ・シェフ』放映と時を同じくして、パリ市庁舎北側の人気店「ダッチャ」の新シェフに就任。9月には店名を「フィンカ」へと刷新し、コロンビアの風土を映すラテン・ガストロノミーで話題を呼んでいます。

「幼少期の記憶とルーツに刻まれた“フランコ・ラティーナ”料理を届けたい」とエステバンさん。「フィンカ」とは、ラテンアメリカの言葉で田舎の農家や郊外の別荘を指す言葉だそう。メニューにも、小さなピクトグラムが散りばめられているのが印象的。農家や素材、シェアの精神を想起させ、視覚的にもラテン・アメリカの世界をさりげなく語ってくれています。


落ち着いた照明のレストラン内にある2��人用テーブルとエステバン・サラザールさん


空間演出も印象的です。舞台装置のように浮かび上がるキッチンを中心に据えた二層構成で、オーナーのアレクサンドル・ラプーの構想を軸に、建築家スヴェティスラック・エクメシッチが具現化したものだそう。光と影、素材のコントラストを巧みに重ね、ウルトラモダンでありながら、どこかラテンアメリカの温もりも感じさせる、文化が交差する空間に仕上がっています。店内にはラテンアメリカのリズムが軽やかに流れ、異国へと誘うような高揚感を添えていました。


白い大理石テーブルの上に並ぶ6品の彩りある料理


そして「フィンカ」での料理は、シェフ自身の記憶の軌跡をなぞるように構成されていました。たとえば、「ホクホクとしたグリーンバナナに、バーベキューした海老を乗せ、コロンビアのサルサ・アセビチャーダソース(柑橘の酸味を効かせたクリーミーなソース)、そして熟成コンテを削って重ねた」一皿。熟成コンテの塩味と熟成感が加わることで、洗練された仕上がりに。キャッサバのガレットにほぐした牛タン、アボカド、コリアンダーを合わせ、クレープのようにいただく料理も印象的でした。幼少期の記憶を起点にしながら、フランスで培った技術が重ねられ、素朴さと洗練が同居する表情を見せています。


左側にムール貝料理とソースの小鉢、右側に「スエロ・コステーニョ」のソースを添えたイカ料理


さらに注目したいのが、要所で効かせる発酵のニュアンスでした。「ガリシア産ムール貝、ココナツミルクのスープ」では、ハーブのソースと、乳酸発酵メロンとを組み合わせて、皿全体に軽やかな酸の輪郭を与え、ココナツミルクのまろやかさを引き締める役割を果たしています。また、キャッサバの搾り汁を発酵させて作る、アマゾン地域の伝統調味液「トゥクピ」を効かせ味にした魚のバーベキューも、ココナッツミルクソース、パネラ(サトウキビの搾り汁を煮詰めて、そのまま固めたもの)のジェルを添えて、ラテンらしいコントラストが光る一皿に。


コロンビア沿岸部の伝統的な発酵乳「スエロ・コステーニョ」のソースと、煮詰めたココナッツミルクを添えたイカのバーベキュー仕立ても、爽やかな酸味が印象的でした。さらに、キャラメルとサワークリームを添えたタマリーリョ(南米原産のトマトに似た果実)のコンポートをのせたトウモロコシのクレープは、酸味と甘味のバランスが光るデザートとして秀逸です。

こうしたエステバンさんの発酵使いは、料理全体の輪郭を整え、奥行きを与えるレイヤーとして効果的に機能しています。同時に、コロンビアならではの発酵文化の一端に触れられる点も、この店の大きな魅力と言えるでしょう。


フランス料理に南米の発酵文化を加えた料理が振る舞われる暖かい雰囲気のレストラン


和食の広がりとともに発酵という技法や素材が改めて注目を集め、フランス料理の表現の幅も大きく押し広げられてきました。そうした流れのなかで、まだ十分に知られていない南米の発酵文化が加わることで、料理の世界にはさらなる可能性がひらかれていく。そんな予感を抱かせる一軒でした。




Photos/Marie Chevalier, Anastasia Li, _phoungry, Aya ITO

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フードジャーナリスト

伊藤 文

Aya Ito

1998年から、在仏食ジャーナリスト・アナリストとして活動。
数々のメディアでの取材・執筆、食関係の本の出版、翻訳の経験、また食分野で活躍する様々なタレント(経営者、シェフ、生産者など)との深い交流を生かし、食を通して日仏をつなぐDOMAを創立(在仏)。
2017年には、パリ12区バスティーユ界隈にショールーム・アトリエ・物販店「atelier DOMA」をオープンする。
和庖丁の販売、メンテナンス、研ぎ教室を中心に、日本の食文化やものづくりの精神を伝える事業も展開する。

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