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パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム

ラグジュアリーなパリのフード事情

パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム

ラグジュアリーなパリのフード事情

昔からグルメの街として名高い、美食の都 パリ。
パリ在住の食のジャーナリストとして活動する伊藤文さんが、世界中の食通をうならせる
数々の美食の中から選りすぐりのものをピックアップして、毎回お伝えいたします。

パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム

実力派パティシエ・ショコラティエが手がける
ヴェルサイユのエレガントな名店「フィーヌ」。

2026年6月12日(金)

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ヴェルサイユ宮殿のほど近くに佇む、エレガントなパティスリー「フィーヌ」。リッツ・パリやダロワイヨ、アラン・デュカスなど名だたるメゾンで研鑽を積んだオーナーシェフのセバスチャン・セルヴォさんがオーナー。ヴェルサイユを代表するパティスリーの一軒として高い評価を集める。


街角の店舗外観。青い看板にFINEとSébastien Serveauの文字が見え、右側では男女2人が青い背景の前で笑顔で並ぶ。


パリから郊外線に揺られること約1時間。ヴェルサイユの街に降り立ち、目抜き通りであるロワイヤル通りを歩くと、その名の通り「王の通り」にふさわしい佇まいのパティスリー「フィーヌ」が現れます。石造りの建物にトレードカラーであるロワイヤルブルーの庇が映える、気品あふれる店構え。道行く人の目を引き、ヴェルサイユの住民はもちろん、近郊やパリからも多くの人々が足を運ぶ人気店です。

オーナーシェフは、パティシエ・ショコラティエのセバスチャン・セルヴォさん。数々の名門メゾンで経験を積み、2020年12月、念願だった自身の店をこのヴェルサイユの地にオープンしました。


明るい洋菓子店の店内。白い陳列ケースにケーキや焼き菓子が並び、棚に商品が整然と並ぶ落ち着いた雰囲気。


店を支えるのは、高校時代からの同級生であり、公私にわたるパートナーでもある妻のバルバラさん。二人はフランス中央部のヌヴェール出身です。バルバラさんは以前、大手フレグランスブランドで調香師として活躍していましたが、セバスチャン氏の独立を機にキャリアを転換。「フィーヌ」の共同創業者として、現在は店舗運営を担いながら、夫婦二人三脚で店づくりを続けています。

店名の「FINE(フィーヌ)」とは、フランス語で「繊細さ」や「洗練」を意味する言葉。ヴェルサイユという歴史と美意識が息づく土地にふさわしく、上質で洗練されたパティスリーを届けたいという思いが込められています。


青い壁にFINEのロゴがある菓子店内。ガラスケースや棚にチョコや焼き菓子が並び、右側のピンク壁にも商品が整然と陳列されている。


セバスチャンさんは、ジャン=ポール・エヴァン氏のもとでキャリアをスタート。その後、アラン・デュカス氏が創設した「エコール・デュカス」でパティスリー部門の責任者を務めたほか、ホテル「リッツ・パリ」や老舗メゾン「ダロワイヨ」のシェフ・パティシエも歴任しました。

とりわけアラン・デュカス氏から厚い信頼を寄せられ、ブーランジュリーやショコラトリーの新規プロジェクトを任されるなど、オープニングシェフとして世界各国を飛び回りました。日本にもたびたび足を運び、さまざまな文化や技術に触れながら経験を重ねてきたといいます。


洋菓子店のショーケースに、ガラスドームや色とりどりのケーキ、焼き菓子が整然と並ぶ。奥にFINEのロゴが見える。


そうした豊かなキャリアを積むなかで抱き続けてきたのが、「いつか自分の店を持ちたい」という夢でした。その思いが結実したのが、ヴェルサイユの「フィーヌ」です。店頭に並ぶ美しく洗練されたお菓子の一つひとつは、長年培ってきた経験と卓越した技術が惜しみなく注ぎ込まれた結晶と言ってよいでしょう。 季節ごとの素材を巧みに取り入れたパティスリーは、目にも華やかで、ひと口ごとに素材の魅力が豊かに広がります。その美しさと味わいは、思わず息をのむほど。セバスチャンさんが追い求めてきたお菓子作りの哲学が、見事に表現されています。 セバスチャンさんに「スペシャリテは何ですか?」と尋ねると、迷いなく「パリ・ブレスト」と言います。パリ・ブレストは、リング状のシュー生地にプラリネクリームを詰めたフランスを代表する伝統菓子。その味わいを決定づけるプラリネこそが最もこだわる部分だといいます。


L'ABSOLUの瓶や色とりどりの小菓子、ケーキが並ぶパティスリーのショーケース。甘く華やかな雰囲気


使用するのは、イタリア・ピエモンテ産の上質なヘーゼルナッツ。直接ローストするのではなく、砂糖をまとわせながらゆっくりと火を入れ、丁寧にキャラメリゼしていきます。こうすることでヘーゼルナッツ本来の繊細な香りや風味を損なうことなく、素材が持つピュアな旨みを最大限に引き出せるのだそうです。こうして完成したキャラメリゼ・ヘーゼルナッツから、なめらかなクレムーと濃厚なソースを作り、香ばしく焼き上げたシュー生地の中へ。土台にはサブレを敷き、さらにヘーゼルナッツ風味のシャンティイをたっぷりと絞って仕上げます。 プラリネは、「Absolu(アブソリュ/絶対的な)」という名で商品化されており、パンやヴィエノワズリーに合わせるペーストとして多くのファンを魅了しています。


高級感のあるパティスリー店内、箱入りボンボンショコラとFINE刻印のチョコバー、キャラメルがとろける接写。


このプラリネを使ったボンボンショコラも、セバスチャンさんを代表するスペシャリテの一つ。香ばしいヘーゼルナッツの風味を存分に引き出した一粒は、素材の力強さと繊細さを同時に感じさせます。さらに、ペルー産カカオを使用したガナッシュや、芳醇なバニラが香るガナッシュなど、緻密に構成されたボンボンショコラの数々も見逃せません。 店内の一角にはショコラ専用のカウンターが設けられ、宝石のように整然と並ぶショコラが来店客を迎えます。その美しい光景は、思わず足を止めて見入ってしまうほど。



青とピンクの箱が並ぶチョコレート店内。中央のショーケース奥に「FINE」ロゴがあり、菓子や包装商品が整然と陳列されている。


タブレットショコラもぜひ手に取りたい商品の一つです。先ほど紹介した「アブソリュ」のプラリネを閉じ込めたものや、砕いたヘーゼルナッツを贅沢に散りばめたものなど。パッケージはヴェルサイユ宮殿のジャルダン(庭園)から着想を得てデザインしたそうです。繊細な意匠のなかには、ヴェルサイユの優雅な美意識と、セルヴォさんご夫妻が大切にするエレガンスの精神が映し出されています。ショコラを味わうだけでなく、その世界観までも持ち帰りたくなるような美しさです。




Photos/Fine, Aya ITO

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フードジャーナリスト

伊藤 文

Aya Ito

1998年から、在仏食ジャーナリスト・アナリストとして活動。
数々のメディアでの取材・執筆、食関係の本の出版、翻訳の経験、また食分野で活躍する様々なタレント(経営者、シェフ、生産者など)との深い交流を生かし、食を通して日仏をつなぐDOMAを創立(在仏)。
2017年には、パリ12区バスティーユ界隈にショールーム・アトリエ・物販店「atelier DOMA」をオープンする。
和庖丁の販売、メンテナンス、研ぎ教室を中心に、日本の食文化やものづくりの精神を伝える事業も展開する。

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