パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム
ラグジュアリーなパリのフード事情
パリ在住のフードジャーナリスト伊藤文さんのコラム
ラグジュアリーなパリのフード事情
昔からグルメの街として名高い、美食の都 パリ。
パリ在住の食のジャーナリストとして活動する伊藤文さんが、世界中の食通をうならせる
数々の美食の中から選りすぐりのものをピックアップして、毎回お伝えいたします。
パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム
新章を迎えた、老舗コンフィズリー「ルイ・フーケ」。
職人技が息づく味わいを堪能。
2026年7月16日(木)

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1852年創業のパリの老舗コンフィズリー「ルイ・フーケ」。2021年からは、経営陣が変わって、新たな時代を迎えながらも、170年以上受け継がれてきた伝統と職人技が息づく味わいは今も変わらず、多くの人に愛され続ける。

パリには、長い歴史を持つメゾンが数多くあります。しかし、そのすべてが時代を超えて輝き続けられるわけではありません。
1852年創業のコンフィズリー「ルイ・フーケ」は、その伝統と価値を失うことなく、さらに高めることに成功している、いま最も注目したいメゾンのひとつです。
私は30年近く前、初めてパリを訪れた頃から、この店が提供し ているものはもちろん、その佇まいが大好きでした。
今も現存する本店は9区にあって、美しいボワズリーに囲まれた小さな空間には、緻密に作られたパート・ド・フリュイ、キャラメル、キャンディ、マロン・グラッセ、チョコレートが所狭しと並んでいます。

コンフィズリーとは砂糖菓子のこと。フランスという国が何世紀もかけて磨き上げてきた技術の結晶と言ってもいいでしょう。
そして、「ルイ・フーケ」は単なる老舗菓子店ではなく、ベル・エポックから20世紀にかけて、芸術家やクチュリエ、文化人たちが足繁く通った、パリのサロンのような存在でもありました。今は存在しませんが、8区の店には、クロード・モネをはじめ、クリスチャン・ディオール、イヴ・サンローラン、カトリーヌ・ドヌーヴ、そして画家・藤田嗣治も、このメゾンを愛した顧客の一人として名を連ねているのです。
そして、2021年からは、新投資家のもとで、メゾンの世界観は壊されることなく磨き上げられました。写真は2023年 にオープンした7区のブティック。新しいブランドイメージを象徴する店舗です。

アトリエも昔は9区の本店の裏にあったのですが、パリ郊外に大きなアトリエを構えました。シェフを務めるのはアレクサンドル・カイエさん。23年来、お店のシェフを務め、「ルイ・フーケ」のレシピをすべて知り抜くエキスパートです。右腕である女性職人のベティさんも21年来のベテラン。
アトリエは大きくはなりましたが、細かい作業はすべて手作業にこだわります。店舗は現在、ハロッズ内のロンドン店も含めて6店舗だそう。店舗も増えたため、製造量も増加。そのため、いままで作っていた商品のいくつかを諦めなくてはなりませんでしたが、やっと新アトリエでの仕事も落ち着き、昔ながらの商品も再開するとカイエさんは意気揚々でした。

例えば製造中のキャラメル。「ルイ・フーケ」のキャラメルは、普通のキャラメルとは大違いで、なんと歯にくっつかないのです。シャキシャキと軽やかな口当たりで、バニラやピスタチオ、チョコレートなど、さまざまな味わいがあらわれ出るのが魅力でした。一時期製作を中断していましたが 、この度始めたということ。新学期から店頭に並ぶそうなので非常に楽しみです。また、SALVATOR(サルヴァトール)は、やわらかいキャラメルを、砂糖を高温で煮詰めた飴状のカラメルで薄く包んだもので、「ルイ・フーケ」のスペシャリテであることも特筆します。アーモンドやヘーゼルナッツの砂糖がけも秀逸です。

パート・ド・フリュイの評価も高いです。いちご、カシス、フランボワーズ、パイナップル、パッションフルーツ、マンゴーなどのフルーツですが、ガリゲット種のイチゴ、ブルゴーニュ産のカシスなどの素材選びはもちろん、最適な熟度の果実を選び、銅鍋でゆっくり炊き上げて、一粒ずつ丸い型に流し込む昔ながらの製法を守っているのです。ですから、そのフレッシュ感のある美味しさには脱帽です。

チョコレートも、もともとはコンフィズリーの一部。そのため、「ルイ・フーケ」のチョコレートもまた、メゾンの真価を物語る存在です。なかでも人気を集めるのが、香ばしいプラリネを棒状に仕立てたバー。さらに、薄く焼き上げたアーモンドサブレをミルクまたはダークチョコレートで包み込んだビスキュイは、軽やかな食感と上質なショコラの調和が楽しめる隠れた名品です。
30年前に初めて扉を開けたときに感じた感動は、今も受け継がれて、このメゾンに確かに息づいています。
Photos/LOUIS FOUQUET, Aya ITO
